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犬の行動の臨床プロセス|観察・評価・教育 #4

犬の行動の理解と教育は、
①観察 →②評価 →③教育
という臨床プロセスで進められる。
この教育の中には、行動変容(behavior modification)を含む。

このページは、あじな動物病院行動科「中西薫の行動大全」における、犬の行動の評価と教育の臨床プロセスを説明する基準ページである。

犬の行動の理解と教育は、

①観察 →②評価 →③教育
という臨床プロセスで進められる。
この教育の中には、行動変容(behavior modification)を含む。

犬の行動はどのように判断されるのか

犬の行動は、観察・評価・教育という順序で理解され、必要に応じて行動変容を含む教育が行われる。

臨床現場において、犬の行動は、
①観察→②評価→③教育という順序で、理解され、必要な場合に教育が行われる。

この教育の中には、行動変容(behavior modification)を含む。
このページは、その臨床プロセスを、散歩中に他犬へ反応する行動を具体例として示すものである。

散歩中に他犬へ反応する行動を例に考える

散歩中に他犬へ反応する行動を例に、犬の行動を理解し教育する臨床プロセスを示す。

散歩中、他犬に対して、注視する、興奮する、吠える、鳴く、突進する、近づこうとして、あるいは距離を取ろうとしてリードを引っ張るなどの顕著な反応を示す犬は少なくない。

この散歩中の他犬への反応は、リードを持つ飼い主を悩ませる問題行動として、臨床現場でも多くの飼い主から寄せられる行動の一つである。

このページでは、こうした散歩中に他犬へ反応する行動を具体例として、犬の行動をどのように観察し、評価し、教育していくのかという臨床プロセスを示す。

続いて、まずこの行動を理解するために必要な、行動の観察について記す。

行動変容は専門家の監督のもとで行う

他犬への反応行動の変容は、犬の行動の専門家の監督と指導のもとで進めることを前提とする。

まず、本ページで示す行動変容は、犬の行動の専門家の監督および指導のもとで進めることを前提としている。

飼い主が独力で行動変容に取り組むことを前提としているものではない。一般的に散歩では、飼い主はリードを持ち、犬の横か後ろを歩いている場合が多い。

そのため、犬の表情や仕草といった微細なボディランゲージの変化を、犬が反応を起こす前に飼い主が把握することは現実的に難しい。

行動変容では、犬の行動とボディランゲージの変化、行動の発生状況、犬の背景情報などを総合的に観察し評価する必要がある。
そのため、臨床現場では、犬の行動の専門家の監督と指導のもとで取り組むことを前提としている。

他犬に反応する行動では何を観察するのか

他犬への反応を理解するためには、行動とボディランゲージを発生状況とともに詳細に観察する必要がある。

行動の発生状況の詳細把握


まず、犬が散歩中出会う他犬に、どのような行動と、その詳細である仕草や表情といったボディランゲージで反応しているかを、行動の発生状況とあわせて、可能な限り正確に把握する必要がある。

他犬に反応するからといって、一様に「攻撃的」なわけでも、「社会化不足」なわけでも、「発散不足」なわけでもない。

犬は他犬に対してどのようなメッセージを発しているのか

犬が他犬に示す行動は、多様な背景事情と情動反応を反映したメッセージとして表れる。

他犬に反応する犬の背景事情―①


他犬に反応する行動には、犬それぞれに多種多様な背景事情が存在する。例えば、犬の反応を、犬の行動が示すメッセージとして表すと、

・怖い

・いやだ

・どうしたらいいかわからない

・追い払いたい

・今は近づかないで欲しい

・今は関わりたくない


これだけではなく、下記のような真逆の場合もあり、

・遊びたい

・関わりたい

・相手の情報を確認したい

そのメッセージは様々である。

これらのメッセージは、

その犬の抱いている情動反応とともに、
犬の行動と、その詳細である仕草や表情といったボディランゲージで推測をする。
また、推測は以下に続くその犬の背景情報と行動記録とあわせて、総合的に行う。
これらは、飼い主が自分では把握できない内容である。

他犬への反応を生み出す背景要因は何か

他犬への反応は、社会化期の経験や過去の体験、日常の環境など複数の背景要因から生じる。

他犬に反応する犬が抱える背景要因―②

他犬に反応する犬が抱える背景要因には、以下のようなものがある。

1、生後3-12週の社会化期(感受期)(※特に前半が、同種動物である犬への社会化が促進しやすい時期)に他犬に接する機会が、


・全くなかった

・不足した

・病気や骨折の治療などで失われた

2、社会化期に他犬に接する機会で、恐怖体験をした

3、社会化期以降、これまでの他犬との恐怖体験の有無、ある場合は、その程度と内容

4、日常的な他犬との関わり不足(他犬がいない、会わない、散歩の機会が少ないなど)

5、日常的な心身の発散不足(暇である、エネルギーを持て余している)

6、日常的に心身のストレスが高まった状態である
(身体:痛みや違和感、ホルモン疾患など
 精神:怖いものや不安なものが多い、犬らしい行動をする機会が無い欲求不満状態など)

これらは、飼い主に詳細な聞き取りを行うことで、把握できる内容である。


行動の発生状況はどのように記録するのか

他犬に反応する行動は、発生状況を飼い主が継続的に記録することで客観的に把握できる。

他犬に反応する行動の発生状況の把握―③

他犬に反応している犬の行動と、仕草や表情といったボディランゲージを観察する必要があるからといって、わざわざ反応する機会を設けることには、人道的にも教育的にも慎重になるべきである。
また、散歩中にリードを持っている飼い主に撮影を頼むことも難しい場合が多い。

よって、まずは、反応自体の観察や撮影の前に、行動の発生状況について把握すべく、飼い主に記録をつけてもらうことをお願いする。
他犬に反応する行動の記録では、以下の項目を散歩毎に記録してもらう。

・いつ

・どこで

・誰に(どんな他犬に)

・どのように反応したか

・反応の激しさを○/10(最大)で数値化

・相手の犬からはどのような反応が返ってきたか

・相手の飼い主からはどのような反応が返ってきたか

・飼い主はどのように対処したか

行動の記録から見えてくるもの

上記方法で行動の記録をつけることで、下記内容が見えてくる。

反応のパターン(例:特定の犬種など)

飼い主から伝染するネガティブな情動変化(不安、焦り、恐怖、パニック、葛藤・飼い主からの一貫しない対応)

飼い主からの意図しない強化

行動の記録をつけることで、実際の現場で何が起きているかを飼い主が客観的に理解することが出来、それをどのように変えたらいいか、その理由とともに、飼い主に理解してもらいやすくなるというメリットがある。

他犬に反応する行動はどのように評価されるのか

行動の評価は、犬の背景事情、背景要因、記録された行動の発生状況に基づいて、行う。

行動の記録を基に、まず着手すべきこと


犬がする行動が、犬、飼い主、地域社会のいずれかにとって不都合(maladaptive)であると判断される場合、まずはその行動がこれ以上発生しないように、環境に働きかけることから始める。

行動の記録を基に、まずは下記内容に着手する。

他犬に会いにくいルート、時間帯に、散歩を変更する。
他犬に会っても、距離を取ったり、横道に逸れたりするなど、回避しやすいルートに散歩を変更する。
家族内に、犬を散歩に連れ出すことが可能な人が複数人いる場合は、誰が散歩に連れ出した場合に、他犬への反応が最も少なく、または小さくなるかを検討し、なるべくその人が散歩に連れ出すようにする。

※ 但し、例外として、

犬が他犬との関わりを求めて反応している場合に、相手がその犬を許容できる犬であれば、出会う機会を少なくするのではなく、逆に、出会い関わる機会を十分に増やし、欲求を満たすことで、散歩中の他犬への反応が減弱することが、臨床現場ではある。

が、これは、反応のケースの中ではごく稀である。

上記①②③の内容を基に、行動の専門家は以下の点について科学的な評価を行う。


1、犬の体が健やかであるか
(痛みや違和感、疾患などはないか、栄養は種類、質、量的に足りているか)

2、犬の心が健やかであるか
(行動欲求は満たせているか、不安や恐怖を惹起する刺激に日常的に、また慢性的に晒されていないか)

3、社会化期(感受期)の他犬への社会化の有無と内容

4、他犬との不快な経験の有無と内容
5、日常的に犬と関わる機会の有無と内容
6、他犬への反応の大別
(興奮しているのか、関わりたいのか、どうしていいのかわからないのか、嫌なのかで、大まかに区分)
加えて、
7、他犬への反応で、犬、飼い主、地域社会のいずれが、どの程度不都合を感じているかを判断する。
その上で、
8、飼い主の希望を聞く。
9、飼い主の希望は、真に到達する必要がある目標かを検討する。

例えば、相手の犬に関わらず全ての犬に優しく出来るようにしたい、や、一切唸らないようにしたい、といった希望を飼い主が抱いている場合は、その目標に到達する必要はないし、犬は生物であるから出来ないことを、飼い主に根拠とともに伝える。

他犬に反応する行動はどのように変えていくのか

行動変容は、飼い主の理解と同意のもと、正の強化を中心とした教育によって進められる。

教育の開始と目標

上記内容を整理し、飼い主の理解と同意が得られたら、正の強化を主に用いた犬への働きかけ(教育)を開始する。

飼い主への行動変容法の説明

正の強化を主に用いた行動変容の機序を、学術用語とともに飼い主に説明しても、難解で理解を得られにくい。

よって、飼い主には以下のように一般化して説明を行っている。

散歩中他犬に反応する行動を「だめ」と叱っても、余計に興奮させるだけで、意味がない。

必要なのは、他犬が出現した際に、反応する替わりに、「どの行動」をすれば、飼い主から「どんな好ましい結果」が得られるのかを、分かりやすく、かつ一貫して教えることである。


「どう振る舞えば良いのか」をその行動で犬が得られる結果とともに、教えることが、教育の目的である。

また、一度経験しただけでは、行動は安定しては変わらないので、望ましい行動が安定して実行出来るようになるまで、繰り返し教え経験させることが必要である。

変容先の行動の設定

他犬への反応の変容では、問題行動と同時に起こらない代替行動を設定する。

行動変容では、まず、他犬への反応という問題となる行動の、替わりとなる行動(代替行動 Alternative Behavior)で、問題となる反応とは同時に実行できない行動(非同立行動 Incompatible Behavior)を、変容先の行動として設定する。

犬がすでに得意とし、散歩中によくする行動があれば、その行動を変容先の行動として設定する。

現場でよく選択するのは、飼い主に意識を戻して飼い主を見る行動、いわゆる、アイコンタクトである。
散歩は屋外での活動であり、多種多様な刺激が、予期せぬタイミングで出現する。また同時に、出現した刺激を飼い主が制御することは不可能である。

そのため、屋外に存在する刺激ではなく、飼い主に意識と視線を戻す行動(アイコンタクト)を変容先の行動として犬に教え強化することが、屋外では特に便利である。

アイコンタクトの練習手順

アイコンタクトは八割超の成功率を維持できる環境から段階的に練習して獲得させる。

正の強化を主に用いて、犬に学習と、行動の獲得を促すためには、練習で成功率(すなわち、強化率)八割以上を維持することが肝心である。

よって、いきなり屋外で多種多様な刺激に犬を晒しながらアイコンタクトの獲得練習をしても、意味がない。
まずは、成功率(強化率)八割以上を維持できる、刺激の少ない屋内から練習は行う。

1、まず屋内で練習
自発的なアイコンタクトが出ない場合は、最初は補助として、口笛など音を立てたり、犬の名前を呼んだりして、アイコンタクトが出るよう促すと良い。
2、屋内での練習に、屋外の刺激を追加していく

少しづつ窓を開けて、屋外の音や風などを練習に追加していく。
3、庭やベランダ、ウッドデッキ、ガレージなど、敷地内の屋外に出て、練習

最初は静かな時間帯から練習を始めていく。刺激は徐々に加えていくこと。
4、敷地外の屋外で、練習

また、変容先の行動としてのアイコンタクトの練習に加えて、毎日行く実際の散歩でも、犬が自発的にアイコンタクトをした時は、必ず褒め、価値の高い報酬(主に犬の大好物の食べ物)を与えるようにする。

練習の準備

行動変容の練習では、犬具や報酬といった飼い主の準備を整えることが成功率を高める。

行動変容のための練習、つまりドッグトレーニングを飼い主が初めて経験する時、成功する、すなわち正の強化を八割超の割合で起こすためには、準備を整えておくことが欠かせない。

例えば、散歩を含む屋外の練習では、一般的に片手はリードを持つリードハンドであり、もう片方の手は犬に報酬の食べ物を届ける、いわゆるトリーツハンドとなる。

よって、なるべく荷物を軽量化し、背負って背中に固定すること(バックパック等)や、飼い主が捌きやすい物にリードなど犬具を見直す、といった準備が必要である。

また犬具については、レッスン現場では、ほぼ100%の飼い主が犬に犬具を緩く装着しており、犬具が犬にフィットしていない。屋外で犬を安全に、そして適切に誘導するためには、犬具がその犬に適切であり、かつフィットしており、また同時に、飼い主に扱いやすいことも、あわせて確認する必要がある。

また、犬にとっての報酬となるもの、つまり正の強化子として、散歩や屋外の練習で犬に与える食べ物については、屋外の様々な刺激下でも犬にとって真に報酬となり得るものを選ぶ必要がある。犬の空腹状態や、食事など報酬以外で犬に提供している食べ物の種類や量などを含め、報酬となる食べ物の選定は丁寧に行うことが求められる。

アイコンタクトで起こりがちなこと

アイコンタクトでは、飼い主が基準を高く設定するあまり、犬が示している初期段階の行動を見逃し、強化のタイミングを逃していることが多い。そのため、練習初期段階では飼い主の認識よりも基準を低く設定する必要がある。

一般的に、アイコンタクトでは、飼い主は犬が自分の目をまっすぐ、そして見続ける行為を最初から求めがちである。そのため、褒めて報酬を与えて伸ばす(強化する)タイミングを逃している場合が非常に多い。

あじな動物病院行動科のレッスン現場では、実際に屋外で犬が飼い主に行うアイコンタクトを飼い主が何割捉えて強化出来ているかをレッスンで測るが、最初のレッスンでは実に犬からの自発的アイコンタクトの八割が見逃され、強化されていないのが現状である。

そのため、出現した他犬に反応して初めて飼い主が犬に対してアクションを起こす、という状況に意図せずなっているケースが圧倒的に多い。
飼い主には、アイコンタクトは犬が、屋外の刺激ではなく、飼い主に意識を戻す行動であるので、特に最初のうちは、

・目をまっすぐ見なくても良い

・飼い主の胸から上に目線が戻れば褒めて良い

・必ずしも体ごと飼い主の方にまっすぐ向ける必要はない

・振り向く場合は、最初は目線だけ、または顔だけ飼い主の方に向けていれば褒めて良い

・保持時間を伸ばす練習ではないので、じっと見続けることを求める必要はない

ことを伝えている。

また同時に、
犬が意識を飼い主に向ける、戻すことを強化するので、アイコンタクトだけでなく、

・飼い主の側に寄る

・飼い主のもとに帰ってくる


上記行動についても、アイコンタクト同様に、屋内でも屋外でも犬が行った場合は、見逃さず褒めて価値ある報酬を与えて伸ばす(強化する)こともあわせて伝えている。

練習から実際の反応現場へのステップアップ

屋外練習では他犬を計画的に配置し、距離と刺激を段階的に調整しながら進める。


他犬を配置しての屋外練習

上記が順番に実施されていった結果として、散歩中に犬が頻回に飼い主に意識を戻すようになってきたら、実際に他犬を配置して屋外での練習を行う。


この時配置する他犬は、反応する犬にとって最も反応を引き起こさない犬であろう犬を、その犬種や、サイズ、性別、行動のパターン(例:吠えない、他犬に反応しないなど)を考慮して、選ぶ。この時、飼い主が記録している行動の記録を基に考慮する。

配置する他犬は、行動変容を監督する犬の行動の専門家が選んだ犬であり、偶然その辺を歩いていた犬では決してない。これは、正の強化を起こすという行動変容の原則上、極めて大事なことである。

配置する他犬の情動への倫理的配慮

配置する他犬の情動にも、倫理的に配慮が必要である。例え、反応する犬の練習相手として適切であっても、その犬が吠えない、反応しないからといって、怖がっていない、居心地が悪くない、ということではない。
特に、相手の犬が怖くて吠えることが出来なかったり、恐怖ですくんで行動が小さくなってしまう犬の場合は、その犬の心的幸福を考え、練習相手の犬として配置するべきではない。

よって、レッスン現場では、ほとんどの場合で、行動の専門家である監督者かスタッフの愛犬や、レッスンの卒業生や受講者の犬を相手の犬として選び配置する。

練習のステップアップ

他犬を配置し、その他犬からある程度の距離を取れば、他犬に反応せずに済むようになったら、または、他犬にわずかに反応したとしても、飼い主に意識を戻せるようになったら、以下のように練習をステップアップする。

ある程度とった距離を、実際の散歩時の他犬との距離まで、段階的に縮めていく。
この時、距離を縮める時は、可能な限り、配置する他犬は同じ犬で固定する。


反応が最も出にくい他犬を配置して、上記練習が出来るようになったら、次に、最初の他犬より反応が出やすい他犬に配置する犬を変更し、再度、反応しない、か、反応しにくい距離をとって、練習を行う。最初の他犬での練習と同様に、段階的に距離を縮めていく。


上記練習を、必要であれば、最も反応が出やすい犬まで、徐々に配置する他犬を変えていき、練習する。

※但し、実際の散歩で出会う犬は様々であり、その状態も行動も、制御することは不可能である。
強く興奮している他犬もいるだろうし、最初から吠えてくる他犬もいるだろう。
練習したからといって、散歩で出会う全頭に全く反応しなくなるというわけではないし、それを練習の目標にするものではない。

この練習の目標は、あくまで、毎日の散歩を飼い主と犬が苦痛を感じずに行けるようになることであり、飼い主が自分の犬の情動と行動をある程度予測して管理監督出来るようになることである。
よって、どこまで練習するかという目標は、飼い主が散歩の苦痛を感じなくなり、犬を導いたら良いか分かるところまで、となる場合が多い。

他犬に反応する犬は他犬と関わるべきか

犬の心身の幸福を考慮し、必要に応じて適切な相手との関わりの機会を検討する。

補足:他犬との関わりについて

他犬に反応する犬が、その犬生で、またはその日常生活で、同種動物である犬と安心して関わる経験、そして機会を持てているかどうかは、犬が種として持つ行動欲求を満たし、心身の幸福度を高めるよう務めるという観点から、折に触れて検討すべき課題である。

現代の日本では、安心して付き合える犬やいわゆる友だちとして遊べる犬を持たない犬や、生まれてこの方、他犬と関わったことが無い犬、また、例えば日中散歩に出ないため、日常的に他犬と触れ合う機会を失っている犬が、決して少なくない。

また、飼い主も、犬をドッグランに連れて行く以外に、どのようにして安心して付き合うことの出来る犬を見つけて良いか、わからない様子である。

よって、実際の散歩で他犬と遭遇時に、飼い主が犬を適切に誘導することが出来るようになり、散歩の苦痛が消失したタイミングで、その犬に安心して関わることが出来る相手がいるかについて改めて検討する。同時に、飼い主の考えと希望についても丁寧なヒアリングを行う。

検討した結果、他犬と安心して関わる機会、経験、そして相手を設けることが、犬の心身の幸福を考慮し必要である場合は、屋外での他犬を配置しての練習の様に、適切な相手の犬を選び、行動の専門家の監督のもと、双方の犬が関わる機会を設ける。

この機会は、海外ではドッグミーティング(Dog Meeting)などと呼ばれる。

あじな動物病院行動科では、
・まず、安心して関ることが出来る一頭を作る。

・そして次に、もし双方の犬が望む場合は、安心して遊べる友達になれると良い。

と飼い主に伝え、ドッグミーティングという経験の機会をレッスンにて提供している。

このページの要点

犬の行動は、観察・評価・教育という臨床プロセスに沿って理解され、環境調整と正の強化を中心とした教育によって行動変容が進められる。

犬の行動を理解し変えていくためには、まず行動の観察から始める必要がある。


犬がどのような行動を示しているか、その仕草や表情といったボディランゲージ、そして行動が起こる状況をできる限り正確に把握する。
次に、その行動が生じている背景を評価する。

犬の情動、社会化期の経験、過去の体験、日常生活の環境、心身の状態などを総合的に検討し、その行動がどのような要因によって生じているのかを整理する。
そのうえで、環境への働きかけを行い、問題となる行動が起こりにくい状況を整える。


そして、問題行動の替わりに実行できる行動を設定し、正の強化を中心とした教育によって望ましい行動、その行動の結果と共に繰り返し経験させていくことで、問題となっていた行動を、受け入れられる好ましい行動へと変容する。

このように、犬の行動は
①観察 →②評価 →③教育
という臨床プロセスに沿って理解され、教育が進められる。

教育の中には、環境調整と正の強化を中心とした行動変容が含まれる。

犬の行動の臨床プロセス
①観察 →②評価 →③教育

よくある質問

犬が他犬に吠える行動は攻撃性ですか。

必ずしも攻撃性とは限らない。

恐怖、不安、葛藤、関わりたい欲求など、様々な経験や情動を背景として起こる行
動である。

行動の意味は、犬のボディランゲージや背景情報、行動の発生状況をあわせて総合
的に判断する必要がある。

散歩中の反応行動は飼い主だけで改善できますか。

多くの場合、飼い主だけで改善することは難しい。
散歩中は飼い主が犬の表情や仕草の変化を反応前に読み取ることが難しく、行動の
観察や環境調整、教育の計画を適切に行うためには行動の専門家の監督と指導が必
要になることが多い。

他犬に反応する犬は他犬と関わらない方がよいですか。

状況による。

恐怖や不安が背景の場合は距離を確保することが必要である。

一方で、関わりたい欲求が背景となっている場合には、適切な相手との経験を増や
すことで行動が落ち着く場合もある。

他犬への反応行動はどのように変えていくのですか。

多くの場合、正の強化を中心とした教育を用いる。

他犬に反応する替わりに実行できる行動を設定し、その行動が起こったときに好ま
しい結果を与えることで、好ましい行動を、その結果と共に繰り返し経験させてい
く。

この教育は環境を段階的に調整しながら進める。

犬の行動がどのような仕組みで変化するのかという学習の基本構造については、
「犬の行動が変わる仕組み|行動の結果と学習の構造」
にまとめています。

犬が環境をどのように探索し情報を集めているのかについては、
「犬の探索とは何か」
で解説しています。

犬の行動をどのような基準で評価するのかについては、
「犬の行動を評価するとは」
で整理しています。

中西 薫
あじな動物病院行動科代表
広島県出身
1999年 北海道大学獣医学部入学
2005年 同大学自主退学
「攻撃行動の治療家」を目指し国内外(イギリス、ベルギー、トルコ、デンマーク、アメリカ、オランダ)で修行
2014年 あじな動物病院行動科開設
    (広島県廿日市市)