このページでは、中西薫の行動大全において用いる主要なことばを、その意味と位置づけから整理する。 犬の行動を理解し、評価し、教育や行動変容を考えるとき、ことばの意味が曖昧なままでは、行動を正確に理解することができない。 ここでは、本サイトで用いる基本的なことばを簡潔に示す。詳しい説明は各基準ページ・関連ページで行う。このページの位置づけ このページは、行動大全で用いる主要なことばを整理するためのページである。 各ことばの詳しい説明は、対応する基準ページ・関連ページ・臨床記録で行う。 ここでは、行動大全全体を読むための共通のことばを、まず簡潔に整理する。
行動のことば
行動|学習|探索|発散|評価|問題行動|
行動形成|行動変容|行動治療|
強化|価値|随伴性

行動|Behavior
行動とは、吠える、唸る、咬む、見る、座る、伏せる、近づく、離れるなど、目で見て確認できる犬の反応や活動のことを表す。 行動は、振る舞い、行い、動作など、さまざまな日常語で表現される。 同時に、行動、反応などの学術的なことばでも表現される。 本サイトでは、このような犬が示すさまざまな振る舞いを「行動」として表す。

学習|Learning
学習とは、自らを取り巻く環境事象が自らの生存にとって良いものかそうでないかという情報を、経験を通じて蓄積していくことである。 またその環境の中で自らが行う行動が、自らの生存に良い結果をもたらすかそうでないかという情報を、同じく経験を通じて蓄積していくことである。 学習は、生存のチャンスや効率を高めるために主に脳で行われる。脳で学習が行われた結果として、目に見える行動も変化する。

探索|Exploration
犬にとって探索とは、単に運動することや遊ぶこと、散歩で地面のにおいを嗅ぐことだけを意味するのではない。
探索とは、犬という動物種が生まれながらに備えている、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、体性感覚(触覚・位置覚・振動覚・痛覚・温度覚)の感覚器を用いて、自らが身を置く環境事象を情報として収集し、その情報を脳へ送り、処理を行う一連の行動プロセスを指す。
本サイトでは、探索を、犬の学習とその結果としての行動変容にとって、重要な前提条件のひとつとして位置づけている。

発散|Fulfillment of behavioral needs
犬の発散は、単に犬を散歩させたり運動させたりすること、また、食べ物を使った宝探しをさせることなどと誤解されがちである。また、飼い主を悩ませる犬の問題行動という観点からは、犬が困った行動をすることがないように、その気力体力を使わせ、削ぎ、疲れ果てさせることと誤解されることもよくある。発散とは、犬が種として持つ探索行動や採食行動、人間や他犬との社会的関わりといった行動欲求を、脳と体を使った活動を通して満たす行動の総称である。
また同時に、犬がその行動欲求を質的に、そして量的に、どの程度満たせているかの状態を表す言葉として、使われることもある。本サイトでは、発散を、犬の学習とその結果としての行動変容にとって、重要な前提条件のひとつとして位置づけている。

評価|Evaluation
犬の行動を評価するとは、犬が行う行動を、観察、記録し、その行動がどのような状況で発生しているか、そしてその行動がどのように行動を行う犬に対して機能しているかを、科学的根拠に基づいて考察するということである。例えば性格のように、犬のことをその人がどう思うかや、その行動がその国その時代ではどのように受け止められるかといったことは、人間側の都合であり、科学的根拠に基づいて行われる犬の行動の評価とは無関係である。 本サイトでは、犬の行動を科学的根拠に基づき評価する姿勢を貫いている。

問題行動|Problematic Behavior
問題行動とは、犬の飼い主の間では世界中で広く使われていることばであるが、犬の行動そのものを一律に表す科学的定義を持たないことばである。よって、本サイトでは、問題行動ということばを用いない。問題行動とは、誰かにとって問題と評される行動、また、誰かにとって問題となる行動と表すのが正確である。この場合の誰かとは、犬、その犬の飼い主と家族、犬と飼い主を包括する地域社会の三者のことを指す。ある行動が誰にとって問題であるのかは、その行動の形態、強度、頻度、生活と地域社会への影響などをあわせ、多角的そして総合的に検討する必要がある。

行動形成|Shaping
行動形成とは、犬に学習させることによって、目標となる行動を段階的に形成していくことである。本サイトでは、犬、飼い主、二者を包括する地域社会のいずれかにとって、その幸福度を高めるという観点から必要と判断される場合に、犬に新しい行動やスキルを教えることを、行動形成として表す。

行動変容|Behavior Modification
行動変容とは、行動のきっかけとなる環境事象や、行動の結果となる環境事象を調整することで、行動の形や強度、出現頻度を変えていく操作である。行動を変えるために、行動を行う犬、そしてその行動そのものについて、その良し悪しを論じたり、働きかけたりすることではないことが、その最大の特徴である。

行動治療|Behavioral Treatment
行動治療とは、行動上の問題に対して、科学的評価に基づき、行動治療薬を用いた治療が必要と判断される場合に獣医療にて行う治療のことである。犬の行動を変える場合、通常では、行動治療単独で行われるのではなく、行動変容と組み合わせて働きかけが行われる。しかしながら、犬の行動を変える必要がある場合でも、どの働きかけを、どの程度行えるのかは、主に犬の飼い主の事情によって異なるため、行動治療が単体で実施されるケースももちろんある。本サイトでは、行動治療を、しつけ、トレーニング、行動変容とは明確に区別して扱う。

強化|Reinforcement
強化とは、その行動の将来の生起頻度が高まること、つまり、その行動が将来起こりやすくなることを表す。本サイトでは、強化を犬の行動変化を理解するための基本概念として扱う。 行動の最中かその直後に、どのような環境事象の変化が起きるかにより、その行動の将来の生起頻度は増えたり減ったりする。存在しなかった環境事象が出現するケースは、正の強化、存在していた環境事象が消失するケースは、負の強化、とオペラント条件付けでは呼ばれる。 科学的根拠に基づく犬の教育は、このうちの正の強化を主軸として行われる。

価値|Value
犬の行動について用いられることば「価値」とは、ある物や出来事が、その犬にとって程度は違えど、好ましいものであるということを表す。例えば、犬という共通した動物種であっても、同じ食べ物や同じ遊び、同じ経験が、すべての犬にとって好ましいわけではなく、また、好ましいとしても同程度に好ましく受け取られるわけではない。科学的根拠に基づく犬の教育は、正の強化を主軸として行われるが、この正の強化の仕組みにおいて、犬のとある行動に働きかけ、その将来の生起頻度を増やした環境事象のことを、正の強化子と呼ぶ。一般的に、これは犬にとって価値のあるものである必要がある。 本サイトでは、教育そして行動変容を考えるうえで、その犬にとって何が価値を持つかを丁寧に検討する。

随伴性|Contingency
随伴性とは、随伴、条件付け、関連、関連性などと時にわかりやすく言い換えられることばであるが、犬の行動については、環境事象と行動の間の結びつきを表すことばである。 つまり、どの環境事象とどの環境事象、または行動が結びついているか、どの行動とどの環境事象、または行動が結びついているか、というつながりであり、結びつきが起こるという性質、またつながりそのものを表す。 犬の行動は、犬が学習した結果、変化する。犬の行動を正確に理解するためには、どの環境事象または行動が、どの環境事象または行動と結びつけられて学習されたかを、つまり、随伴/随伴性を正確に理解する必要がある。 本サイトでは、随伴性を、学習の基礎概念として扱う。
このページからつながる基準ページ
・犬の行動が変わる仕組み
・犬の探索とは何か
・犬の行動を評価するとは
・犬の行動の臨床プロセス
・犬の行動変容とは何か
このページからつながる記録・実例
・あじな動物病院行動科にて実際に行なっている行動の評価の一例|他犬への反応が見られた二歳Bちゃんの臨床ケース
・月間 行動コラム
・臨床の記録
最後に
犬の行動を理解するためには、行動に関することばを正確に理解することが欠かせない。本サイトでは今後も、必要なことばを加えながら、行動の理解、評価、教育、行動変容をつなぐ基準を整理していく
犬の行動を体系的に学びたい方は、行動大全をご覧ください。
中西薫の行動大全|Behavior Compendium
