現代の快適な屋内環境が、犬にとって本来必要な刺激を遠ざけ、「退屈」からくる問題行動につながっている背景を紹介し、野生動物にルーツを持つ犬が、見る・嗅ぐ・掘るといった本来の習性を十分に発揮できない現状について、遺伝子や環境の視点から紐解いていきます。
日々の暮らしを少しだけ見直し、犬が本来いるべき自然な環境に近づける工夫が、心身の健康を保つためにいかに大切であるかを示し、土の上で過ごす時間を増やすなど、犬の行動欲求を満たすための具体的なアプローチを提案します。

あっという間に12月。
2025年が静かに終わろうとしています。
この一年、あなたと愛犬にはどんな時間があったでしょうか。
手応えのある日も、思いがけず立ち止まった日も、
それぞれのペアに積み重なっているはずです。
12月にどんな行動英文をご紹介しようかと、
行動学のノートをめくっていました。
行動形成、強化の仕組み、動物の習性、進化適応、認知、情動。
今年の締めくくりにふさわしい文章を、いくつか選んでいました。
けれど、今回紹介するのはそのどれでもありません。
英語の文章でもありません。
今月は、飼い主さんと愛犬に、次の言葉を届けたいと思います。
「ゴンドアの谷の歌にあるもの。
“土に根をおろし、風とともに生きよう。
種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう”。
どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、
土から離れては生きられないのよ」
―1986年上映『天空の城ラピュタ』より

現代は、あらゆるものが一斉に動き、
息つく間もなく変化していきます。
その変化に戸惑っているのは、私たち人間だけではありません。
行動科で寄せられる声に触れていると、
犬たちもまた、その流れに戸惑い、困っていると感じます。

犬が抱える苦しみは、
「取り残される」というよりも
「本来寝そべるべき土から引き離されていく苦しみ」
と表現したほうが近いかもしれません。
遺伝子の視点で見ても、
犬は私たちより自然に近い習性を持つ動物です。
同じく共通祖先を持つ野生動物である狼は、
広大な自然の中で暮らします。
陽を浴び、風を受け、雨にあたりながら、
草や土や砂や岩の上で生きる存在です。
けれど、現代の犬たちはその環境から遠ざかりつつあります。
人と暮らす家は快適で静かですが、
犬にとっては刺激が少なく、退屈になりやすい場所です。
見る、聞く、嗅ぐ、触れる。
なめる、咥える、噛む、ちぎる。
掘る、ひっかく、探索する。
本来、犬が日々の中で使うべき行動の多くが、
屋内では十分に発揮できません。
そのため犬の行動には、
Boredom-based problem(退屈が引き起こす問題行動)
という言葉があるほどです。
今よりほんの少しだけでいい。
犬が本来いるべき環境に近づける工夫をする。
土の上で過ごす時間を一つ増やしてみる。
それだけでも、犬の“困った行動”は大きく改善していきます。
12月は、このシータの言葉をひとつの軸にしながら、
犬を少しだけ「土」に戻すための工夫を、
みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

最愛の犬たちに
「人間と暮らすのはもう、バルス!」
と言われてしまわないためにも。
行動の背景となる学習の構造については、
公式解説として、以下のページにまとめています。
犬の行動が変わる仕組み:行動の結果と学習の構造

