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犬のしつけ・トレーニングがうまくいかないのは相性が原因?|本当の原因と正しい考え方

犬のしつけ・トレーニングがうまくいかないのは相性のせいなのか

動物病院の診察で落ち着いている犬と、威嚇して抵抗する犬の対比

「診察に慣らす時に、仲良くなれる犬となれない犬とで違いがあって、その違いはやっぱり私と犬との相性が理由なんですかね?」

先日、犬に優しい診察を志す獣医師の先生から、悲しそうなお顔でこんな質問をいただきました。

まず、ご質問への、中西からの回答ですが、「相性」が原因ではおそらくありません。
では、教える人間(トレーナー)と教えられる犬(ラーナー)との「相性」が原因でないとしたら、いったい何が、うまくいくケースとそうでないケースの差を生み出しているのでしょうか。

犬が一頭一頭異なるように、もちろんそれぞれのケースに事情や原因はあるため、絶対これだけと言い切るものではありませんが、うまくいかないケースでよく起こっているのが、「マニュアル化」です。

犬のトレーニングがうまくいかない原因は「マニュアル化」

たとえば、動物病院での診察や予防、治療や検査、トリミングサロンでのトリミング、爪切りや歯磨きなど、犬という動物にとっては理解不能で不自然でも、犬の心身の健康を維持向上させるために必要不可欠な処置は、実にさまざま存在します。

これら必要な処置を苦手で受け入れることができなくなっている犬に、褒めて報酬となるご褒美を届け、苦手なことを犬自らが克服できるように助け、教えるトレーニング手技があります。

そのトレーニング手技は、語源の古い表現では、ハズバンダリートレーニング(Husbandry Training)、最近の表現ではチョイストレーニング(ChoiceTraining)、コーポレイティブケア(Corporative Care)などと呼ばれ、学習理論のオペラント条件付けの、正の強化と呼ばれるメカニズムに基づいています。
ただし、これらの手技は、こうしさえすれば、どんな犬もその苦手を克服できるという「マニュアル」ではありません。

その一方で、とある犬のとあるケースについての実施例や見本を、「治せるマニュアル」と勘違いしてしまうことで、他の犬をその「マニュアル」に当てはめようとし、さらには押し付けてしまうことで、結果うまくいかない、という事態が起こってしまいがちです。
ハズバンダリーやチョイストレーニングで犬が楽しそうに、すなわち簡単そうに、苦手を克服していく様子が感動的であることに対して、その苦手克服学習を可能にする仕組みは非常に難解です。
素晴らしいし感動的でやってみたい、簡単に出来そう、でも、実際にやってみたらよくわからない、難しくてうまくいかない。
そのギャップによって、「うまくいかない」という感覚が生まれ、それが「相性」を疑うきっかけになってしまうようです。

犬の行動が変わる仕組み|随伴という構造

では、その差を生み出している本質は何なのでしょうか。
ハズバンダリーやチョイストレーニングと呼ばれるトレーニング手技は、「治せるマニュアル」ではなく、犬にどの「随伴」を教えるかを書き表した構造式です。随伴とは、関連のことです。何と何を関連づけて、犬が学習しているか、ということです。随伴を理解するときに欠かせないのが、犬の行動(Response)と、犬にとっての環境刺激(Stimulus)の二つの項目です。

たとえば、
お座りの合図が出され、犬が座り、そのあとに褒められてご褒美をもらう。
これを式で表すと、
S→R→S
となります。

犬がどんな随伴を経験し学習しているかによって、犬の行動は変わります。
そして、犬が苦手を克服するためには、どの行動とどの刺激を関連づけて学習させる必要があるのか、その随伴を適切に設計する必要があります。

犬に合わせたトレーニング設計とは何か

必要な処置が苦手になった犬に、新たな随伴を教え、自ら選んで行動することで苦手を克服できるよう助けるためには、まず「マニュアル」に犬を当てはめようとしないことが肝心です。

その犬は、何の処置が苦手か。
どの工程が苦手か。
どのくらい苦手か。
どういう経緯で苦手になったのか。

それらその犬と苦手に関する情報を、丁寧に収集し、観察することが必要です。
たとえば、苦手克服を叶えるために欠かせないご褒美ですが、その犬にとってなにが十分価値あるご褒美かも、当然一頭一頭異なります。皆同じではあり得ません。

必要なのは「正しいやり方」ではなく、その犬に合わせて設計された随伴です。
実際にその犬に合わせた随伴がどのように設計されていくのか。
次の記事で、レッスンの実例を通して見ていきます。

犬のトレーニングがうまくいかないときに見直すべきポイント

心からの喜びとともに褒めて、その犬にとって真に報酬となるご褒美を届ける教え方で、苦手なことを自ら克服できるように教えるトレーニングを行なっているつもりでいても、うまくいかないと感じたら、「相性」を疑う前に、「マニュアル化」してしまっていないか、「その犬自身」を十分観察できているかを、振り返ってみてください。

苦手克服は、究極のその犬の個性探し、そして個性の発見です。犬の苦手を知り、トレーニングを通じて苦手克服を助けることは、その犬を知る過程でもあります。

犬の行動学は、その道しるべであり、地図だと言えるでしょう。

関連
インスタグラムライブ動画「本日の。相性・前編」もあわせてご覧ください。
https://www.instagram.com/reel/DX2sUGokxOY/?igsh=MmlzamNua3QwN2g0

随伴について詳しくは、
行動大全|犬の行動が変わる仕組み|行動の結果と学習の構造をご覧ください。

このページで用いる主なことばの意味と位置づけは、
行動百花|行動のことば に整理しています。


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