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犬には世界がどうみえているの?

犬と人間では色の見え方が異なり、犬は主に黄色や青みがかった灰色の世界を捉えていると考えられています。
この記事では、犬にとって識別しにくい色の存在など、科学的な知見から明らかになっている犬特有の視覚について紹介しています。
こうした見え方の違いは、動物がそれぞれの環境で生き残るために発達させてきた「認知」の仕組みによるものです。
人が当たり前だと思っている景色と、犬が見ている世界が異なるという事実は、犬という動物の性質を正しく理解する上で欠かせない視点です。

人が三種類の色の光受容体を持っているのに対して、犬は二種類しか持っていません。
そのため、犬はおそらく世界を「黄色」や「青みがかった灰色(ブルーイッシュグレー)」の濃淡で見ていると考えられています。
(参考:Perfect Puppy in 7 Days Dr. Sophia Yin, DVM, MS)


10年以上前、プロ向けの試験でこんな問題が出たのを、今でもよく覚えています。
「犬にそれ自体を合図として教えるために、ハンドラーは毎回赤いセーターを着てトレーニングに臨む。これは適切か否か?」
どう思いますか?

そう、正解は「No」。
なぜなら犬は、おそらく赤い色を識別できないからです。
犬にとって赤は“見えない色”と言われています。
 

出典:Dr. Sophia Yin『Perfect Puppy in 7 Days』より引用(人と犬の色覚の比較)
出典:Dr. Sophia Yin『Perfect Puppy in 7 Days』より引用(人と犬の色覚の比較)


では、犬はいったい世界をどんな色で見ているのでしょうか?

私はレッスンやセミナーで、こんなふうにお話ししています。
「私たち人間が見ている世界に、セピア色の薄めた墨汁をさっと流したような色味なんですよ」
そう伝えると、みなさん一様に
「へぇ〜!そんなに色がないんですね!」
と驚かれます。
(そこからいつも楽しい対話が始まります。)
  


 

「世界を何色で見ているか」

それは、その動物がどのように世界を認知する必要があるかを映し出しています。

認知とは、
自分の周囲の環境がどんな状態かを素早く察知し、その情報を脳に送り、脳が「良い/悪い」「安全/危険」と判断するシステムのこと。

食べ物や水といった「快」を見つけて取りに行き、捕食動物など「不快」や危険を察して逃げる。生きるために絶対に欠かせない仕組みです。

この仕組みがうまく働かない動物は、
その環境では生き残れず、やがて絶滅してしまいます。
 
つまり「世界を何色で見るか」とは、
その動物種にとって生存と繁殖に最も有利だった色の見え方ということなのです。

(このあたりをもっと詳しく知りたい方は、鳥取環境大学・小林朋道先生の著書をぜひ読んでみてください。とても興味深い内容です。)
 

さて、犬の話に戻りましょう。
犬の祖先は、数万年前のオオカミから現れたと言われています。
ということは――その時代の地球環境では、赤が見えなくても困らなかった?
むしろ黄色や青みがかった灰色で世界を見るほうが、生き延びるのに有利だった?

なぜでしょう?

私たちはその犬たちと共に生きてきたホモ・サピエンスの子孫なのに、
実はその理由をよく分かっていません。

(でも確かに、彼らと共に生きてきたからこそ、今ここに私たちはいるのです。)

 
犬が見ている世界を、私たちは科学的な情報から想像することしかできません。
けれどその「想像する」という行為こそ、犬を理解したいという私たちの願いの現れではないでしょうか。

犬の行動を学ぶたびに、私は「自分はまだ犬のことを知らない」と気づき、そして同時にワクワクします。

私たちは犬のことを、実は何も知らない。
でも――知らないからこそ、知りたい。理解したい。
それはきっと、犬という存在を心から愛しているからですね。
 

 
――今日も、犬と世界を見よう。


📚参考書籍
『苦しいとき脳に効く動物行動学』小林朋道 著(築地書館)
『先生、犬にサンショウウオの捜索を頼むのですか!』小林朋道 著(築地書館)

行動の背景となる学習の構造については、
公式解説として、以下のページにまとめています。

犬の行動が変わる仕組み:行動の結果と学習の構造
https://ajinavc-behaviorsec.com/knowledge/learning-mechanism/

中西 薫
あじな動物病院行動科代表
広島県出身
1999年 北海道大学獣医学部入学
2005年 同大学自主退学
「攻撃行動の治療家」を目指し国内外(イギリス、ベルギー、トルコ、デンマーク、アメリカ、オランダ)で修行
2014年 あじな動物病院行動科開設
    (広島県廿日市市)