このページは、実際の臨床現場で行った聞き取りと観察をもとに、
ある犬の行動を評価基準に基づいて評価した過程について記録したものです
ご相談内容
二歳の Bちゃん について、飼い主さんから次のご相談をいただきました。
一歳を過ぎた頃から、お散歩中に他犬を見つけると、
相手を注視し(ロックオン)し、相手に向かって突進しようとするようになった。
(行動①)
また、自分から他犬に興味を持って近づき、
におい嗅ぎなどの挨拶を交わした後、
突然、相手に対してガウガウと強く反応する行動が見られるようになった。
(行動②)
「どうしたらよいでしょうか」というご相談でした。
Bちゃんの基本情報
・和犬雑種のおんなのこ(中型犬)
・避妊済
・2歳
・同居犬:七歳のお兄ちゃん犬(和犬雑種・中型犬・去勢済)
・同居犬同士の関係は良好
・心身ともに犬として健やかな生活を送っている
行動科での聞き取りの進め方
あじな動物病院行動科 では、
以下の手順で、まず詳細な聞き取りを行います。
1.行動を分けて捉える
今回のご相談に含まれる行動は二つあります。
・行動①:他犬を見つけると注視(ロックオン)し、突進しようとする
・行動②:挨拶後に突然ガウガウと反応する
どちらの行動で困っているのか。
どちらを優先的に扱いたいのか。
飼い主さんと確認します。
2.行動の発生状況を詳細に聞き取る
行動の正確な姿を把握するため、以下を中心に聞き取りを行いました。
(聞き取り内容と推測判断)
・Bちゃんの他犬に対する大まかな情動反応
・他犬とのコミュニケーション履歴
・嫌悪学習やトラウマ経験の有無
・同居犬(お兄ちゃん犬)からの影響の有無
・飼い主さんによる意図しない強化の有無
聞き取ることができた具体的な情報
・一回の散歩で出会う他犬は三頭ほど
・出会う犬はほぼ固定されており、新しい犬は少ない
・散歩環境は比較的静かな郊外
・散歩は一頭ずつ行っている
→ 二歳のBちゃんの対応能力を超える環境ではないと判断
・お兄ちゃん犬は他犬に対して無反応
・幼い頃には、他犬とレスリング(いわゆる、わんプロ)を楽しんでいた時期がある
→ お兄ちゃん犬からの学習影響は、ほぼないと判断
・他犬に対する強い嫌悪経験はない
・一歳までに複数の犬と遊ぶ経験がある
・現在も、仲の良い大型犬三頭とは遊ぶことができている
→ 嫌悪学習の可能性は低く、
他犬とのコミュニケーション経験・能力に大きな問題はないと判断
3.リードを持つ飼い主さんの対応の確認
・飼い主さんは困っているが、怒ってはいない
・ガウガウと反応した際は、リードを短く持ち、先に行ってもらっている
→ 行動①・②ともに、
飼い主さんによる無意識の強化は起きていないと判断
行動の総合評価
以上の聞き取りから、次のように評価しました。
・Bちゃんは心身ともに健やかに生活している
・犬同士のコミュニケーション能力や経験に大きな問題はない
・他犬との嫌悪学習やトラウマは認められない
・現在も遊べる他犬が存在する
・飼い主さんや生活に深刻な支障をきたす状態ではない
これらを総合し、
Bちゃんの他犬への行動は、
いわゆる異常行動や、その詳細が正常の範囲を逸脱した行動、ではないこと。
また、Bちゃんにとって支障をきたしている状態ではない(問題行動ではない)ことを、
飼い主さんにその旨をお伝えしました。
「問題行動」という言葉について
問題行動とは、
犬の行動が悪いと決めつける言葉ではありません。
犬、飼い主さん、
そして犬と飼い主さんを含む地域社会。
この三者のいずれかにとって問題となる行動を、
一般に「問題行動」と呼びます。
行動学の分野では、
「Undesired behavior(望ましくない行動)」
「maladaptive behavior(不適応な行動)」
という表現が用いられます。
行動変容への取り組み
Bちゃんの行動が問題行動ではないことを共有した上で、
飼い主さんがより安心してお散歩できるよう、
行動変容のための学習プランを作成することになりました。
行動変容の準備として、初回レッスンでお出しした宿題
宿題1
・行動①・②の動画撮影と提出(可能な範囲で)
宿題2
・お散歩中の行動記録
・いつ
・どこで
・どの犬に
・どの行動(①/②)を
・どんな様子だったか
・飼い主さんの対応
・周囲の人の対応
これを表形式で記録し、
一週間ごとの提出をお願いしました。
補足:おやつが関与する行動について
行動記録の説明過程で、
Bちゃんが幼い頃から、
お散歩中に一部の飼い主さんからおやつをもらっていたことが分かりました。
また、
おやつが出現すると、
普段より相手の犬に対して厳しい態度を示すことがある、
という飼い主さんの申告がありました。
この点については、
資源(価値の高い食べ物)が関与する行動として、
所有性に関連する反応の可能性も視野に入れ、
行動①・②とは分けて扱う必要があると説明しました。
まずは、
おやつが出現しない状況での行動①・②への取り組み
から開始することとしました。
本ケースの評価は、
犬の行動を評価するとは|問題行動と決める前に知っておきたい判断基準に基づいて行っています。

