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発散とは何か|学習に影響する条件

発散の定義と原則

発散とは、犬が種として持つ探索行動や採食行動、人間や他犬との社会的関わりといった行動欲求を、脳と体を使った活動を通して満たす行動の総称である。

犬の学習は、種として備わった行動欲求が発散によってある程度満たされ、欲求不満に伴うストレス反応が軽減された状態において、より安定して進行しやすくなる。

脳と体の発散が慢性的に不足すると、犬は欲求不満が持続するストレス状態に置かれ、情動が不安定になったり、刺激に過敏になったりしやすくなり、その結果、破壊行動や過剰な吠え、恐怖・不安反応、飼い主への威嚇行動などが発生・増加しやすくなる。

発散の位置づけ


発散は、犬を「たくさん運動させること」や「遊んで疲れさせること」ではありません。
また、特定の遊びやトレーニング方法を指す言葉でもありませんし、問題行動の診断名でもありません。

発散とは、犬が種として持つ探索行動や採食行動、人間や他犬との社会的関わりといった行動欲求を、脳と体を使った活動を通して満たす行動の総称です。これらの行動は、日常生活の中で具体的に観察し、確認することができます。

同時に発散とは、それらの行動がどの程度満たされているかという状態を示す概念でもあります。

生活の中にそれらの行動が存在するか、存在しているならどのように実施されているか、その充足・不足の状態を確認することが、行動変容の手続きに入る前に欠かせません。

発散が足りている状態とは何か

発散が足りているかどうかは、散歩を例に挙げると、時間の長さ、歩いた距離、走らせた場所の広さ、触れ合った犬の頭数、または一日に行った散歩の回数などで判断できるものではありません。また、そう単純なものでもありません。

重要なのは、犬が種として本来行うべき行動が、その個体の心身の健康を維持するのに十分果たされているかどうかです。

そのために、探索行動や採食行動、社会的関わりといった、種として行うべき行動が実際の生活で日常的に行われているかを見ます。
同時に、行われている場合には、その頻度や時間といった要素だけでなく、量と質の両面から十分かどうかを検討します。

また、犬が種として行うべき行動には、その必要性に応じて様々な種類(行動レパートリー)が存在します。室内で食事を使った探索活動を行わせていればそれで良い、というものではなく、犬という動物の生活サイクルを踏まえ、多様な行動が行えるよう工夫する必要があります。

発散不足が行動に影響する仕組み


発散がレパートリー・量・質のいずれの面でも不足すると、人間との暮らしの中で犬は、人間に
とって問題となる行動を起こしやすくなります。これは「しつけが足りない」や「犬の性格が悪
い」「犬の頭が悪い」といった、一般的によく耳にする説明には該当しません。発散不足から起
こっている現象です。

その根底には、行動欲求が満たされない状態が続くことによって生じる、精神的ストレスと情動
のネガティブな変化があります。
欲求不満が著しかったり、慢性化したりすると、犬は持続的なストレス状態に置かれ、落ち着き
にくくなります。
また、ストレスがない時に比べて刺激に対する反応閾値が下がり、音など外部からの刺激に対す
る反応が強まりやすくなります。

その結果

・破壊行動

・過剰な吠え

・恐怖や不安症状の強まり

・飼い主への威嚇攻撃行動
といった行動が現れたり、強まったりしやすくなります。
種として必要な行動を行う発散の不足が招く、行動変化です。

発散は「疲れさせること」ではない

発散という言葉は、しばしば「たくさん運動させること」「クタクタに疲れさせること」と誤解されます。
しかし、疲労、消耗、疲弊は発散の本質ではありません。

犬を散歩で長時間走らせたとしても、におい嗅ぎなど、その犬の持つ行動欲求を満たす機会が与えられなければ、発散にはなりません。
逆に、短時間であっても、犬がにおい嗅ぎをしたり、落ちている枝や草などを口に含んで探索したりするなど、主体的に環境と関わる機会を持つことができれば、発散は成立します。

重要なのは、犬に種として必要で、かつその犬が求めている行動を果たせているかという点です。

この点から、発散は、飼い主と運動や遊びをするという介入の手段ではなく、必要な行動を果たせているかどうかの評価の視点であると言えるでしょう。

臨床で見える発散不足

若齢犬の飼い主から多く寄せられる、破壊行動の訴えがあります。
家具をかじる、物を壊す、落ち着きがないなど、行動だけを見ると、人間にとっての「問題行動」や、犬自身の「性質の問題」として扱われがちです。

しかし、生活の中で探索や採食といった種として必要な行動を果たす機会があるかを改めて確認すると、その環境内で行動を発揮できる機会が極端に欠けているケースは少なくありません。

その場合は、しつけやトレーニングで問題となる行動に直接取り組むのではなく、まず環境内での発散機会を整えることが優先されます。

生活の中での発散の機会が整うことで、犬は欲求不満というストレスから解放され、問題となる行動の変容に必要な学習がより安定して進みやすくなります。

関連する基準ページ
発散と学習の関係については、次の基準ページで詳しく扱っています。

犬の行動が変わる仕組み
学習が成立する条件と、行動変化の因果構造について整理しています。

犬の探索とは何か
探索行動がどのように行動問題と関連するかを定義しています。


関連する臨床記録

若齢ジャックラッセルテリアによくみられる発散不足と破壊行動の臨床記録

本ページは、
犬の学習や行動変化を考える前に確認しておくべき前提条件を整理するためのページです。

中西 薫
あじな動物病院行動科代表
広島県出身
1999年 北海道大学獣医学部入学
2005年 同大学自主退学
「攻撃行動の治療家」を目指し国内外(イギリス、ベルギー、トルコ、デンマーク、アメリカ、オランダ)で修行
2014年 あじな動物病院行動科開設
    (広島県廿日市市)