行動形成トレーニングにおける随伴と合図付け

本原稿では、人が犬と行う行動形成トレーニングについて、その過程で犬が学習する刺激と行動の関連、すなわち随伴を、オペラント条件付けと古典的条件付けを用いて解説する。また、あじな動物病院行動科のプロ向けレッスンにおいて質問を受けることが多い、行動形成トレーニングの最終目標である合図付けについて、そのメカニズムを解説する。

行動形成トレーニングで目標とされる随伴とは

行動形成トレーニングの目標とは端的に言えば、犬がある特定の合図 Cueとある特定の行動 Behaviorの関連、つまり随伴 Contingency学習することである。
そのために、美味しい食べ物や好きなおもちゃ、楽しい遊び等の、犬にとって好ましい刺激を強化子として用い、オペラント条件付けの正の強化スケジュールに則って、行動形成トレーニングは行われる。これら行動形成トレーニング中で犬に与えられる好ましい刺激は、一般的には報酬 Rewardと呼ばれる。

行動形成トレーニングにおける、合図付けまでの随伴とは

行動形成トレーニングでは、
まず、
特定の行動 Response (以下、R)
→ 人からの喜びの感情(社会的報酬)+褒め言葉(報酬の合図)
→ 報酬
この手順を繰り返す。
この手順に含まれる刺激 Stimulus (以下、S)を古典的条件付けで解説すると、
人からの喜びの感情(社会的報酬)は、快情動を惹起する、無条件刺激 Unconditioned
Stimulus (以下、US)

褒め言葉 は、快情動を惹起するようになった、条件刺激 Conditioned Stimulus (以下、CS)
報酬 は、 快情動を惹起する、無条件刺激 Unconditioned Stimulus (以下、US)
である。
この手順に含まれるオペラント条件付けの正の強化は、
まず、
特定の行動
→ 人からの喜びの感情(社会的報酬)+褒め言葉(報酬の合図)
→ 報酬
である。
随伴は、
R→S→S
である。

行動形成トレーニングで合図付けに進むタイミングとは

→ 人からの喜びの感情(社会的報酬)+褒め言葉(報酬の合図
→ 報酬
この手順を必要な回数と期間繰り返すと、
正の強化に基づき、特定の行動の生起頻度は当然上昇する。
そして、
・10回中8回以上、すなわち80%以上の確率で、犬が特定の行動を実行できるようになる
・スムーズに繰り返し、犬が特定の行動を実行できるようになる
この段階まで、行動が変化したことを確認し、その事実をもって、犬が上記手続きの関連、すなわち合図付けまでに必要な随伴学習したと判断をする。そして、行動形成トレーニングの最終目標である合図付けに進む。

行動形成トレーニングにおける合図付けの手順とそのタイミング

犬が特定の行動を、80%以上の割合で、スムーズに繰り返し実行できるようになったら、特定の行動に、人が意図する特定の合図を関連づける手順に移る。
合図付けの手順と随伴は、以下の通りである。
特定の合図 Cue
→特定の行動
→ 人からの喜びの感情(社会的報酬)+褒め言葉(報酬の合図
→ 報酬
この随伴式から分かるように、犬に、特定の合図と特定の行動の関連、すなわち随伴をスムーズに学習させるためには、特定の行動の直前に、犬に特定の合図を呈示することが必要である。
また、合図を呈示するタイミングは非常に重要である。
合図付けにおいて、その特定の合図が、犬にとって聞く音声の合図であっても、見る視覚の合図であっても、感じる触覚の合図であっても、人が犬に出した合図を犬が認識できる必要がある。
よって、犬が他の強い刺激に気を取られている時に、合図を出しても意味がない。
例えば、外でサイレンが鳴り響いていて、犬がその音に意識を向けているときに、特定の行動と関連付けたい合図(例えば、「マット」という言葉の合図。)を犬にかけても、合図行動は関連づかない。このように、強い刺激が弱い刺激を覆い隠してしまい、意図した関連付けが行われない現象は、刺激の隠蔽 Over-Shadowing(オーバーシャドーウィング)と呼ばれる。刺激の隠蔽現象を理解していると、特定の行動に関連付けたい特定の合図がなんであっても、関連付けに最適なタイミングで、犬に合図を呈示することができるようになる。

行動形成トレーニングにおける合図付けとその随伴

特定の合図(S)
→ 特定の行動(R)
→ 人からの喜びの感情+褒め言葉 (S)
→ 報酬 (S)
上記手順を、必要な回数と期間繰り返すと、
特定の合図と特定の行動が関連づく。
この時、特定の行動は、特定の合図が呈示されると起こり、特定の合図が呈示されない条件では起こらなくなるので、この事実をもって、特定の合図は、弁別刺激 DiscriminativeStimulus (Sd)となったと判断される。
また、特定の合図は、その合図を見たり聞いたり感じたりする犬にとっては、最初は快でも不快でもない中性的な刺激(中性刺激) Nutral Stimulus(以下、NS)であるが、犬が上記随伴学習することで、その後に続く好ましい刺激と関連づき、犬にとって快情動を惹起する条件刺激 (CS)へと変化する。つまり、特定の合図と特定の行動の関連を楽しく学習した犬にとって、合図はそれ自体が好ましいものとなるのである。

行動形成トレーニングの目標到達

特定の合図(S)
→ 特定の行動(R)
→ 人からの喜びの感情+褒め言葉 (S)
→ 報酬 (S)
このようにして、行動形成トレーニングが目標とする、特定の行動への、特定の合図付けが完了する。そして、犬が楽しそうに、自ら望んで、合図で特定の行動を行えるようになるのである。
合図付けとは、行動形成トレーニングを犬に行う人間の感覚や勘といった、個人の主観に依存するものではなく、刺激と行動随伴を理解し、人が求める随伴を犬が学習できるように計画して行われるものであることが、お分かりいただけたと思う。


あじな動物病院行動科 中西薫

この記事を書いた人



中西薫 
あじな動物病院行動科代表。
北海道大学獣医学部入学後、同大学を自主退学。「攻撃行動の治療家」を目指し、国内外で犬の行動について学ぶ。2014年、広島県廿日市市にあじな動物病院行動科を開設。
犬の行動(Behavior)を専門とし、一般にしつけやトレーニングと呼ばれる犬の教育を、行動の科学的解析と評価に基づき、行動形成トレーニング、行動療法トレーニング、行動治療としてレッスン現場で指導している。

■関連する行動の基準ページ
犬の行動形成トレーニングとは何か

このページで用いる主なことばの意味と位置づけは、
行動百花|行動のことば に整理しています。

関連する基準ページ
発散と学習の関係については、次の基準ページで詳しく扱っています。

犬の行動が変わる仕組み
学習が成立する条件と、行動変化の因果構造について整理しています。

犬の探索とは何か
探索行動がどのように行動問題と関連するかを定義しています。

犬の行動を評価するとは
犬の行動をどのような基準で評価するのかについて整理しています。

犬の行動の臨床プロセス
犬の行動をどのような流れで観察し、評価し、教育していくのかという臨床プロセスについてまとめています。

《 行動の世界へ戻る