はじめに
本コラムは、すでに雷を気にしている、または雷を怖がっている犬の飼い主さんに向けて書きました。
雷を気にしていない犬に、予防として行う内容ではありません。
少し長いコラムですが、雷を怖がる犬のために、雷が鳴っていない日にできる対策と準備をまとめました。
すべてを一度に読まなくても大丈夫です。必要なところから読んでください。
このコラムでご紹介すること
・やってはいけないこと
・次の雷で悪化させないために考えること
・飼い主さんが自分でできる対策と準備
・動物病院と一緒にできる対策と準備
・動物病院に相談するために、準備しておくこと
・雷への恐怖をやわらげる補助として用いられているもの
・あじな雷外来2026へのご相談
犬が雷を怖がる季節は約5か月続く

雨の季節が訪れると、いよいよ日本列島は雷が頻繁に鳴る、いわゆる「発雷シーズン」に入ります。この雷シーズンは例年6月頃から始まり、長い時には台風の発生に伴って10月頃まで続きます。雷を怖がる犬にとっては、実に5ヶ月もの間、雷が鳴る可能性が高まる時期が続くことになりますが、これは犬にとって大きな脅威であり、ストレスと言えます。
それだけでなく、いつ頭上で雷が鳴るか、犬にはまったく予想ができないため、まるで不意打ちのように雷が鳴るこの時期は、犬にとってさらに過酷であると言わざるを得ません。
この雷シーズンが始まると、あじな動物病院行動科には、雷を怖がる愛犬についてのご相談が連日寄せられるようになります。
雷を怖がる犬のために、次の雷に備える

ブルブル震える
ハァハァあえぐ
よだれをたらす
クンクン鳴く
ワンワン吠える
飼い主さんにつきまとう
ウロウロ歩きまわる
物かげに隠れる
尿や便をもらす
パニックを起こして走りまわる
など、
これらは、実際に雷を怖がっている犬が見せる様子です。
あなたの愛犬は、どんな様子で雷を怖がっているでしょうか?
前回のコラム「愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?」では、実際に雷が鳴っているときに、飼い主さんが愛犬をどう助けたらよいかについて、その対策をご紹介しました。
✔【前回のコラム】
愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?
「雷が鳴っているときにどうしたらいいかは分かった。けど、また次の雷は必ず鳴るから、それまでどうしたらいい?愛犬とただ怯えて暮らすしかない?」
その飼い主さんの声にお応えすべく、
本コラムでは、雷の鳴る季節に、次の雷にどう備えたらよいのか、その対策と準備についてご紹介したいと思います。
前回のコラムが雷が鳴っているときの「救急箱」なら、本コラムは、雷が鳴っていない日に、次の雷に向けて準備する「避難袋」です。

では、避難袋の中から、次の雷に備える対策と準備をひとつずつご紹介していきたいと思います。
雷が鳴る季節は、怖がる犬を雷に慣らす練習をしない

次の雷に備える避難袋から、まずひとつ目にご紹介するのは、「やってはいけないこと」です。
雷の季節になり、雷が鳴ると怖がる愛犬をなんとか助けようとして、雷が鳴っていない日に雷に少しでも慣れるようにと、飼い主さんが愛犬に練習をさせようとしてしまうことがあります。
その練習とは、例えば、雷の音を流して犬に聴かせたり、音だけでなく、空に稲光が走っている画像をテレビやタブレットなどに映して犬に見せたりするものです。また、それらを聴かせたり見せたりしながら、ドッグフードなどの食べ物を与えるものなどもあるようです。
しかし、これらの練習は、すでに雷が怖くなっていて、雷が鳴っているときに先にご紹介したような恐怖や不安の反応を実際に示している犬には特に、雷が鳴る季節「発雷シーズン」には行うべきではありません。
行う意味も、必要性もありません。
雷が鳴る季節は、犬にとって、いつ雷が鳴るかまったく予測ができない季節です。同時に、不意打ちで雷が鳴る季節でもあります。雷を怖がる犬は、それだけで日常生活の中で受ける心身のストレスが高まっています。
そのような時期の、雷が鳴っていない日に、愛犬に必要なのは、なるべく安心してリラックスして過ごすことです。
つまり、「雷から休むこと」です。
いつ怖い雷がやって来るかわからない時期に、無理に雷の音や映像を使った練習をさせようとすると、ある日は雷のような音や映像が流れても大丈夫だったのに、ある日は本物の雷が鳴り響いてとても怖かった、という経験を犬にさせることになります。
これでは、結果的に犬を騙すことになってしまいます。
音や映像のあとに何が起こるのかを一貫させられないため、犬にとってわかりにくく、学習の面でも非常に効率が悪くなります。
やってもほぼ意味のない練習で、雷が鳴っていない日まで苦労することは、犬にも飼い主さんにも必要ありません。
雷が鳴る季節に、雷が鳴っていない日に、わざわざ雷を鳴らして練習するのはやめましょう。
必要なのは、練習ではありません。
犬も飼い主さんも、安心して「雷から休むこと」です。
雷が鳴る季節は、雷を怖がる犬の恐怖を悪化させない

「雷が鳴る季節の、雷が鳴っていない日に、無理に練習してはいけないことはわかった。でも雷を怖がる愛犬のために、何か対策や準備をしてあげたい。何をしたらいい?」
次の雷に備える避難袋から、次にご紹介するのは、「悪化を防ぐこと」です。
雷を怖がる犬に、雷が鳴る季節にしてあげるべきこと。
それは、雷が鳴っているときは、なるべく怖くないように助けてあげること。
そして、雷が鳴っていないときは、次の雷がもっと怖くなってしまわないように、「悪化を防いであげること」です。
雷が鳴る季節は、いかに雷を怖がる気持ちを悪化させずに今シーズンを乗り切るかを、考えましょう。
そのために押さえておきたい対策と準備を、順番にご紹介していきたいと思います。
雷を怖がる犬のために、飼い主さんができる対策と準備

雷が鳴る季節の雷が鳴っていない日にすべきことは、練習ではなく、「雷への怖い気持ちの悪化を防いであげること」でした。
まず、飼い主さんが自分でできる、悪化を防ぐ対策と準備をご紹介します。
1.雷を怖がる犬が自分で選べる避難場所をつくる

先のコラム「愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?」でもご紹介しましたが、雷が鳴っているときに、愛犬に必要なのは、「少しでも安心できる場所」とその場所を「自分で選ぶこと」です。
そのために、まず、少しでも雷の音や稲光などの刺激が弱くなるように、雨戸に油を差したり、カーテンを遮光と防音機能を備えたものに取り替えたり、窓に防音シートやスモークシートを貼るなどの工夫してみましょう。これらは簡単に見えますが、雷が鳴り響いているときには意外とできないことで、雷が鳴っていない日だからできる対策と準備です。
次に、雷が鳴っているときに、愛犬が自分で、より安心できる居場所を家の中で探せるように、通り道や居場所になる可能性がある場所を、片付けましょう。倒れてくる物(棚の上の物など)や、愛犬が届いてしまう物(観葉植物や食料ストックなど)、落ちている物で愛犬に危険な物(薬やそのシート、画鋲や釘など)がある場合は、固定したり片付けたりしましょう。
あじな動物病院行動科のレッスンで、実際に雷への恐怖をやわらげたり克服したりする取り組みをされている飼い主さんと愛犬のケースでは、飼い主さんの寝室、ベッドの下、布団の中、玄関の靴箱の下、物置、クローゼット、脱衣所、お風呂場などを、雷が鳴っているときの避難場所として犬が選ぶこともあります。
例えば、お風呂場などは、万が一雷への恐怖から浴槽内に飛び込んで溺れることがないように、浴槽の水を抜く、浴槽に蓋をするなどの安全対策が必要です。
2.雷を怖がる犬のために、大好きな食べ物を準備する

こちらも、先のコラム「愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?」でご紹介しましたが、雷が鳴っているときに、もし愛犬がなめたり食べたりすることができるなら、美味しくて愛犬が大好きな食べ物を与えることは、雷への恐怖をやわらげるために行いやすく、効果的です。
ですが、先の場所づくりと同様に、いざ雷が鳴り始めてからでは、こちらも準備が間に合いません。
そこで、雷が鳴っていない日にあらかじめ、愛犬が大喜びしてなめたり食べたりするおやつ探しやおやつ作りをして備えておくのがおすすめです。
大事なのは、雷が鳴っていない普段の日に、まず与えてみて、愛犬が大喜びするか、食べた後で体調は変わらないかを見ておくことです。
雷が怖い犬にとって、雷が鳴っているときは非常事態です。雷から逃げるために交感神経が強く働いて、胃腸の動きが抑制され、消化吸収力も落ちてしまいます。
雷のときに与えてみる食べ物は、雷が鳴っているときに初めて与えるのではなく、普段リラックスしているときに与えたことがある大好物にしましょう。
獣医学的には、緊張時には、固形物より液状の食べ物の方が飲み込みやすく、消化吸収もされやすいです。例えば、犬用ヤギミルクや、なめて食べるゲル状のおやつ、缶詰やレトルトパウチの嗜好性の高いフードなどが、固形フードより食べやすいです。
また、食物アレルギーや持病などによる食事制限がない場合は、乳製品または乳製品から作られた犬用おやつを、雷が鳴って緊張しているときに与えるのも、おすすめです。これは、乳製品に多く含まれるトリプトファンが、犬の気持ちを落ち着けるよう働きかける神経伝達物質の材料になるためです。
「愛犬におすすめの雷をやり過ごすためのおやつを教えてください。」というご質問をたくさんいただくのですが、食物アレルギーなど、注意が必要な体の状態は一頭一頭異なるため、商品名などをコラムでご紹介することができません。
ご自分の愛犬にどんなおやつを用意したらよいかをお知りになりたい場合は、あじな動物病院行動科の雷外来へお問い合わせください。
雷を怖がる犬のために、動物病院と一緒にできる対策と準備

雷が鳴る季節の雷が鳴っていない日にすべきことは、練習ではなく、「雷への怖い気持ちの悪化を防いであげること」でした。
まず、飼い主さんが自分でできる、悪化を防ぐ対策と準備として、逃げ場所と大好物の食べ物についてお話ししました。
続いて、動物病院と一緒にできる、悪化を防ぐ対策と準備について、ご紹介したいと思います。
雷が鳴っているときは、なるべく怖くないように助けてあげることが必要であるとお話ししましたが、犬がこれまで体験した雷の恐怖により、すでに飼い主さんだけでは助けきれないほど、雷を怖がるようになってしまっている場合もあります。
また、そうでなくても、たまたまその日の雷が激しかったり、鳴る時間が長かったり、雷と同時に雨風も強かったりするなど、様々な理由により、いつも以上に犬が感じる恐怖が強まってしまう場合もあります。
こんな場合は、雷が鳴っている中、飼い主さんが逃げ場所を作ったり、美味しいおやつを用意したりして、自分でなんとか助けようとしても、なかなかうまくいきません。
そんなとき、雷が鳴っていない日に、かかりつけの動物病院に相談に行っておいて、準備を整えておくと、とても安心です。
1.雷を怖がる犬の対策に使われる抗ストレスサプリメント

愛犬が雷を怖がって困っていることを、動物病院に相談してみましょう。
例えば、動物病院と一緒にできる雷への対策と準備として、抗ストレスサプリメントと呼ばれるものがあります。
これら抗ストレスサプリメントの多くは、牛乳や緑茶といった食物から作られており、愛犬に飲ませることで、愛犬が感じるストレス、すなわち雷への恐怖をやわらげる効果が期待できます。
雷の季節には、毎日飲むタイプと、雷が鳴る日だけ飲むタイプがありますが、自己判断で雷が鳴っているときにだけ飲ませると、そのサプリメントと怖い雷が関連づいてしまうこともあるため、飲ませるときは動物病院に相談して飲ませましょう。
2.雷を怖がる犬の対策に使われる犬アピージングフェロモン製品(アダプティル)

愛犬が雷を怖がって困っていることを、動物病院に相談してみましょう。
例えば、動物病院と一緒にできる雷への対策と準備として、犬アピージングフェロモン製品と呼ばれるものがあります。
これは、アピージングフェロモンと呼ばれる、母犬が授乳中の子犬を落ち着けるために乳房付近から出すフェロモンに類似した物質を製品にしたもので、犬が吸い込むことで、犬の気持ちを落ち着ける効果が期待できます。
アロマディフューザーのように部屋に拡散させるタイプや、犬が雷から避難する場所の布地(ベッドやブランケットなど)にスプレーするタイプ、あらかじめフェロモン製品を染み込ませたチョーカー(首輪)タイプの三通りから、雷が鳴っているときの愛犬の過ごし方にあわせて選びます。
こちらも、抗ストレスサプリメントと同様に、自己判断で雷が鳴っているときにだけ使うと、怖い雷と関連づいてしまうこともあるため、動物病院に相談して使用するようにしましょう。
3.雷を怖がる犬の対策に使われる行動治療薬

愛犬が雷を怖がって困っていることを、動物病院に相談してみましょう。
例えば、動物病院と一緒にできる雷への対策と準備として、行動治療薬と呼ばれるものがあります。
これは、犬に飲ませることで、薬が脳神経に働きかけ、雷が鳴っているときに犬が恐怖や不安を感じにくくなり、落ち着きやすくなる効果があります。
行動治療薬には、その薬が働きかける時間の長さによって、短時間作用型(ショートタームメディスン)と長時間作用型(ロングタームメディスン)があります。
また、犬を落ち着かせる神経は一つではなく、セロトニンやGABAなど、その伝達物質によっていくつかに分類されますが、どの神経に働きかけて犬を落ち着かせるかによって、行動治療薬も種類が分かれます。
これらの薬は、先にご紹介した抗ストレスサプリメントや犬アピージングフェロモン製品と組み合わせて使用されることもあります。
犬の雷への恐怖や不安がすでに十分に強く、雷の季節に日常生活に支障が出ている場合などは、行動治療薬で雷への恐怖をやわらげることがまず必要なこともあるため、薬だからと敬遠せず、動物病院で獣医師の先生としっかり相談してください。
4.雷を怖がる犬の様子を動画に撮り、動物病院への相談に備える

愛犬が雷を怖がるときに、動物病院に相談して、動物病院と一緒にできる対策と準備をご紹介しました。
動物病院で相談するときに、雷が鳴っているときに愛犬がどんな様子なのかを3分程度の動画に撮影しておくと、愛犬の雷への恐怖の度合いを判断する大切な材料の一つとなり、大変役立ちます。
先のコラム「愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?」でもご紹介したように、判断材料として、動画を撮影しておきましょう。
雷を怖がる犬に使われる、その他の補助的な対策

飼い主さんが自分でできることと、動物病院と一緒にできることをご紹介しました。
ご紹介したもののほかにも、圧迫衣や、植物由来のエッセンス、モーツァルトの音楽など、雷への恐怖をやわらげる補助として用いられているものは複数ありますが、期待できる効果や科学的根拠の程度はそれぞれ異なり、犬によって合う、合わないの違いがあるようです。
雷を怖がる犬のためにできる対策と準備

雷を怖がる犬に、雷が鳴る季節にしてあげるべきことは、「雷が怖い気持ちの悪化を防ぐ」ことでした。
悪化を防ぐ対策と準備が詰まった避難袋の中から、雷が鳴っていないときにできるものを、飼い主さんが自分でできることと、動物病院と一緒にできることに分けて、ご紹介しました。
いかがでしたか?
今まで知らなかった対策と準備は、あったでしょうか?
今まで二年間葛藤して我慢して、苦しかったです。今日相談してよかった。私、できてることたくさんあるし、まだまだできることいっぱいあるんだなと思いました。
今年のあじな雷外来(雷について相談できるオンライン行動カウンセリング)を利用された12歳のチワワちゃんの飼い主さんからいただいた言葉です。
雷に苦しむ愛犬にしてあげられていることはたくさんある。
同時に、まだしてあげられることもたくさんある。
愛犬を雷から助けるために、このコラムを読んでくださったあなたにも、そう思っていただけたなら、あじな動物病院行動科代表としてこれほどうれしいことはありません。
雷を怖がる犬に困っている飼い主さんへ

このコラムは、愛犬が雷を怖がって困っている飼い主さんに向けて、書きました。
次の雷に備えるための避難袋として、使ってもらえたら幸いです。
飼い主さんと愛犬が、少しでも落ち着いてこの夏の雷をやり過ごせることを、心から願っています。
雷、大雨、強風などの自然現象を愛犬がひどく怖がって困っている。
そんな飼い主さんは、一度ご相談ください。
個別に相談できる期間限定オンライン行動相談
「あじな雷外来2026」

あじな動物病院行動科 中西薫
この記事を書いた人
中西薫
あじな動物病院行動科代表。
北海道大学獣医学部入学後、同大学を自主退学。「攻撃行動の治療家」を目指し、国内外で犬の行動について学ぶ。2014年、広島県廿日市市にあじな動物病院行動科を開設。
犬の行動(Behavior)を専門とし、一般にしつけやトレーニングと呼ばれる犬の教育を、行動の科学的解析と評価に基づき、行動形成トレーニング、行動療法トレーニング、行動治療としてレッスン現場で指導している。
あじな動物病院行動科 中西薫について
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