あじな動物病院行動科は、2026年8月より「あじな動物病院行動セクション」へ名称を変更いたしました。

犬の雷への恐怖とは何か|雷恐怖症・悪化のサイン・対策・治療 #8

雷は、犬という動物にとって、生まれつき怖いもの、すなわち「生得的脅威」である。

雷を怖がる犬には、ブルブル震える、ハァハァあえぐ、よだれをたらす、鳴く、吠える、飼い主についてまわる、ウロウロ歩きまわる、物かげに隠れる、尿や便をもらす、パニックを起こして走りまわるなど、さまざまな仕草や行動が見られる。

雷への恐怖や不安は、雷を経験していく中で悪化することがある。怖がる仕草や行動が激しくなる、複数になる、長く続く、雷が鳴り止んでも回復に時間がかかる、雷だけでなく雨や風なども怖がるようになるといった変化は、悪化を確認するときの重要なサインとなる。

雷を怖がる犬に必要なのは、怖がる行動を叱ってやめさせることでも、さらに雷にさらすことでもない。

雷が鳴っているときには、犬が感じている恐怖や不安を少しでもやわらげる。雷が鳴っていないときには、次の雷で恐怖や不安がさらに悪化しないよう準備する。以前より雷を怖がるようになっている場合には、悪化を防ぎ、必要に応じて動物病院や行動診療科へ相談する。

雷への恐怖や不安が高じて心身の健康に障るほど悪化した状態は、「犬の雷恐怖症(Thunder / Thunderstorm Phobia)」と呼ばれる。必要なケースでは、獣医療による治療が必要となる。

本稿は、すでに雷を気にしている、または雷を怖がっている犬について扱う。雷を気にしていない犬に、予防として行う内容ではない。


第Ⅰ部|雷を怖がる犬を理解する

目次

犬はなぜ雷を怖がるのか

雷は、犬という動物にとって、生まれつき怖いもの、すなわち「生得的脅威」である。

もちろん個体差があり、雷が平気な犬もいる。

一方で、人間が雷を弱めたり消したりすることはできない。いつ雷が鳴るかを完璧に予測することも、雷からいつも避難することも現実にはできない。

そのため、雷を怖がる犬について考えるときに必要なのは、犬に「雷を怖がらないようにする」ことから始めることではない。

まず必要なのは、今鳴っている雷を犬が少しでも怖く感じないですむように何ができるのかを考えることである。

雷を怖がることで起きている仕草や行動についても、なんとかしてやめさせようとするのではなく、その犬が感じている恐怖や不安を少しでもやわらげることを考える。

雷を怖がる犬にはどんな仕草や行動が見られるのか

雷を怖がる犬が見せる仕草や行動には、震える、あえぐ、よだれをたらす、鳴く、吠える、隠れる、ウロウロ歩きまわる、排泄する、パニックを起こすなどがある。

代表的なものとして、次のような仕草や行動がある。

  • ブルブル震える
  • ハァハァあえぐ
  • よだれをたらす
  • クンクン鳴く
  • ワンワン吠える
  • 飼い主についてまわる
  • ウロウロ歩きまわる
  • 物かげに隠れる
  • 尿や便をもらす
  • パニックを起こして走りまわる

これらは、犬が心から雷を怖がることで引き起こされている脳と体の反応であり、犬自身がやろうと思って行っているわけではない。

したがって、たとえば吠える、震える、ウロウロするといった仕草や行動を叱ってやめさせようとしても効果はなく、むしろ雷への恐怖をさらに悪化させる。

見るべきなのは、「この行動をどうやってやめさせるか」ではなく、犬が雷にどのような反応を示し、どの程度怖がっているのかである。

第Ⅱ部|雷への恐怖の悪化を見分ける

犬の雷恐怖症とは何か|雷への恐怖や不安の悪化を見分ける

犬の雷への恐怖や不安が高じて、心身の健康に障るほど悪化した状態を「犬の雷恐怖症(Thunder / Thunderstorm Phobia)」と呼ぶ。

雷への強い恐怖や不安が犬の脳内に湧き起こることで、感情を司る脳(情動脳)が、感情を制御して理性的な判断を行う脳(理性脳)の働きを一時的または長期的に抑えてしまう、いわば脳のパニック状態により引き起こされる行動疾患である。

雷を怖がっている犬については、「雷を怖がるか、怖がらないか」だけを見るのではなく、以前と比べてその恐怖や不安がどう変化しているのかを確認することが重要である。

雷への恐怖や不安が悪化していることを確認する主なサインには、次の三つがある。

雷を怖がる仕草が激しくなり、種類が増え、長く続く

一つ目は、雷を怖がっているときに見られる仕草や行動そのものが変化することである。

主な変化は、

  • 大きくなる
  • 複数になる
  • 長くなる

ことであり、それらが組み合わさる場合もある。

たとえば、以前より震え方やあえぎ方が激しくなったり、よだれが大量にたれるようになったりする。

以前は震えるだけだった犬が、震えながらよだれもたらし、さらに失禁するようになる。

以前は雷が鳴ったあと数分間だけウロウロ歩きまわっていた犬が、雷が鳴り始めてから鳴り終わるまで、数時間ずっと歩き続けるようになる。

このように、雷が鳴っているときの犬の仕草や行動の頻度、持続時間、激しさが増加することは、犬が感じる雷への恐怖や不安が増大していることを表している。

「雷を怖がっている仕草の変化」は、犬が以前より雷を怖く感じるようになっている悪化のサインのひとつである。

雷が鳴り止んでも、落ち着くまで時間がかかる

二つ目は、雷が鳴り止んだあとの「回復」に時間がかかるようになることである。

雷が怖い犬は、雷が鳴っている間、恐怖や不安の仕草や行動を示すが、雷が鳴り止んだあと、一定の時間を経て元の状態へ戻っていく。このことを「回復」と呼ぶ。

以前は雷が鳴り止めば比較的早く落ち着いていた犬が、

雷が鳴り止んでもなかなか落ち着けない。
元の状態へ戻らない。
雷への恐怖を長く引きずる。

このように、以前より明らかに回復に時間がかかるようになることも、雷への恐怖や不安が悪化しているサインのひとつである。

雨や風など、雷以外のものまで怖がるようになる

三つ目は、もともとは雷だけを怖がっていた犬が、雷以外のものまで雷のように怖がるようになることである。

もともとは雨の音は平気だった犬が、大雨の日にひどい雷を経験したあと、雨の音も怖がるようになる。

その後、大雨だけでなく小雨まで怖がるようになる。

雷への恐怖が強風へ広がり、普段の何気ない風の音を気にするようになる。

あじな動物病院行動セクションへ寄せられた相談では、ひどい雷の日に偶然使っていた炭酸水メーカーや炊飯器まで怖がるようになり、それらの機械の作動音に震えるようになった犬も複数いる。

このように、もともとは雷とは無関係だったものが、怖い雷と関連づき、そのものまで怖くなる現象を「般化(Generalization)」と呼ぶ。

恐怖の般化が広範囲へ拡がり始めると、犬の生活は不自由になり、犬自身も辛くなる。

雷以外のものまで雷のように怖がるようになることは、雷への恐怖や不安が悪化しているサインのひとつである。

犬の雷への恐怖や不安はどんなときに悪化しやすいのか

犬の雷への恐怖や不安は、強い雷や繰り返される雷だけでなく、加齢、体調、睡眠、生活環境など、犬を取り巻くさまざまな状態が重なったときにも悪化しやすい。

雷への恐怖や不安が悪化しやすいタイミングとして、次のようなものがある。

  • これまで経験したことのないひどい雷を経験したとき
  • 雷を連続して経験したとき
  • 加齢時
  • 痛みやかゆみ、ホルモン疾患、病気などの体の不調時
  • 質の良い睡眠を必要なだけ取れていないとき
  • 季節の変わり目や酷暑の夏など、温度や湿度などの環境変化が大きいとき
  • 必要な栄養、たとえば良質な脂質などが不足または欠乏しているとき
  • においを嗅ぎたい、物を噛みたい、壊したい、走りたい、飼い主と一緒にいたいなどの行動欲求(ニーズ)が満たされず、強い欲求不満や慢性的な欲求不満を抱えているとき
  • 日常生活の中に、雷以外にも怖いもの、苦手なもの、嫌いなものが多く存在するとき
  • それらの怖いもの、苦手なもの、嫌いなものが頻回に、または長時間存在するとき
  • 引っ越しやリノベーションなど、生活環境に大きな変化が加わったとき
  • 今まで家にいた飼い主が働きに出るなど、生活習慣や生活リズムに大きな変化が加わったとき
  • 隣に家が建つ、近所で解体工事があるなど、騒音や振動といった大きな不快な刺激が突然加わったとき

犬が以前より雷を怖がるようになった場合には、雷そのものだけでなく、このような変化が同時に起きていないかも確認する。

第Ⅲ部|雷への具体的な対策

雷が鳴っているとき、怖がる犬にはどう対応するのか

雷が鳴って犬が怖がっているときには、犬が感じる恐怖や不安を少しでもやわらげることを優先する。

確認する対処は、次の五つである。

  1. 飼い主が深呼吸して落ち着く
  2. 少しでも雷の刺激を小さくする
  3. 犬に逃げ場をつくる
  4. 犬が会いに行ける場所にいる
  5. 食べられる大好物があれば与える

1.飼い主が深呼吸して落ち着く

犬にとって頼りになる存在である飼い主が緊張していると、犬もさらに緊張する。

まず、飼い主自身が深呼吸して落ち着く。

好きな音楽や映画を流すなど、飼い主自身がリラックスできる環境を整えることや、肉を煮たり焼いたりして室内においしそうなにおいを漂わせることも、雷が鳴っているときの対応として紹介している。

2.少しでも雷の刺激を小さくする

家の中で部屋を移動できる場合には、少しでも稲光が見えにくく、雷鳴が聞こえにくい部屋へ犬とともに移動する。

移動できない場合には、カーテンを引く、雨戸を閉めるなど、雷ができるだけ見えない、聞こえないように工夫する。

雷へ慣れさせるために、雷がよく見え、よく聞こえる場所で犬に雷を経験させることは行わない。

3.犬に逃げ場をつくる

雷が鳴っている間、家の中のどこで過ごすかを人間が一方的に決めるのではなく、安全に過ごせる範囲で、犬自身がより落ち着ける場所を探せるようにする。

「必ずリビングにいさせる」などと決めず、犬が居場所を探して移動できるようにする。

ハウスやクレートの中にいることを人間が決め、扉を閉めて強制的にそこへいさせることもしない。

どこなら落ち着けるのかを決められるのは、その犬自身である。

4.犬が会いに行ける場所にいる

飼い主がそばにいることで震えがおさまるなど、犬の不安が明らかにやわらぐのであれば、雷が鳴っている間、そばにいる。

ずっと犬のそばについていられない場合には、犬が必要なときに会いに来られるようにして、犬から飼い主の居場所がわかるところにいる。

抱っこする、撫でる、さするといった接し方も、それによって犬が落ち着くのであれば行ってよい。

大切なのは、どこで、どのように過ごすと、その犬の不安が実際にやわらぐのかを見ることである。

5.食べられる大好物があれば与える

雷が鳴っているときでも食べられる大好物がある場合には与えてみる。

緊張が強くて食べられない場合には、無理に食べさせる必要はない。

また、雷が鳴っている非常時に、これまで一度も食べたことのないものを初めて与えることも避ける。

普段から食べた経験があり、犬の体調に問題がなく、雷が鳴っているときにも食べられる大好物がある場合に利用する。

雷が鳴っていないとき、次の雷にどう備えるのか

雷が鳴っていない日に行うべきことは、すでに雷を怖がっている犬に雷を経験させることではなく、次の雷で恐怖や不安がさらに悪化しないように準備することである。

日本では、雷が頻繁に鳴る発雷シーズンが例年6月頃から始まり、長い場合には台風の発生に伴って10月頃まで続く。

雷を怖がる犬にとっては、雷が鳴る可能性が高い時期が約5か月続くことになる。

したがって発雷シーズンでは、

雷が鳴っているときは、なるべく怖くないように助ける。

雷が鳴っていないときは、次の雷がもっと怖くならないよう悪化を防ぐ。

という二つを分けて考える。

雷への恐怖や不安をこれ以上悪化させない

すでに雷が怖くなり、雷が鳴ったときに恐怖や不安の反応を示している犬には、発雷シーズン中、雷の音を聞かせたり、稲光の映像を見せたりする練習を行わない。

音や映像を流しながら食べ物を与えるような練習も、この時期には行わない。

雷が鳴る季節は、犬にとって、いつ雷が鳴るか予測できず、不意打ちで雷が鳴る時期でもある。

そのため、雷が鳴っていない日に犬に必要なのは、なるべく安心してリラックスして過ごすことである。

すなわち、「雷から休むこと」である。

発雷シーズンには、雷の音や映像を使った練習よりも、雷への恐怖や不安をこれ以上悪化させずにシーズンを乗り切ることを優先する。

犬自身が選べる避難場所を準備する

雷が鳴っているときに犬へ必要なのは、「少しでも安心できる場所」と、その場所を「自分で選ぶこと」である。

雷が鳴っていない日に、少しでも雷の音や稲光などの刺激が弱くなるよう環境を整えておく。

雨戸を整備する、遮光や防音機能を備えたカーテンへ取り替える、窓に防音シートやスモークシートを貼るなど、雷が鳴ってからでは行いにくい準備を事前に行う。

そのうえで、雷が鳴ったときに犬自身がより落ち着ける場所を選べるようにする。

雷のときにも食べられる大好物を準備する

雷が鳴ってから初めて食べ物を探すのではなく、雷が鳴っていない普段の日に、犬が本当に喜んで食べるものを確認しておく。

同時に、それを食べたあと体調に変化がないことも確認する。

雷が鳴っているときに初めて食べるものではなく、普段リラックスしているときに食べた経験のある大好物を準備する。

食物アレルギーや持病など、食事について注意が必要な状態は犬によって異なるため、その犬に合ったものを選ぶ。

動物病院と一緒にできる対策を準備する

犬がこれまで経験した雷によって、すでに飼い主だけでは助けきれないほど雷を怖がるようになっている場合がある。

また、雷そのものが激しい、長時間続く、雨や風も強いなど、その日の条件によって犬が感じる恐怖がいつも以上に強くなる場合もある。

そのような場合に備え、雷が鳴っていない日に、かかりつけの動物病院へ相談して準備を整えておく。

動物病院と一緒にできる対策として、抗ストレスサプリメント、犬アピージングフェロモン製品、行動治療薬などがある。

雷を怖がる犬にしてはいけないことは何か

雷を怖がる犬に対しては、怖がる行動を叱る、発雷シーズンに雷へ慣らす練習をする、逃げようとしている犬を閉じ込める、悪化している状態に自己流の対策を次々試す、といった対応を避ける。

叱って怖がる行動をやめさせようとしない

震える、あえぐ、吠える、隠れる、ウロウロ歩くといった仕草や行動は、犬が雷を怖がることで起きている。

犬自身がやろうと思って行っているわけではないため、叱ってやめさせようとはしない。

叱ることで、雷への恐怖をさらに悪化させる。

発雷シーズンに雷の音や映像で慣らす練習をしない

すでに雷を怖がっている犬には、発雷シーズン中、雷の音を聞かせたり稲光の映像を見せたりして慣らす練習を行わない。

雷が鳴っていない日に必要なのは、安心して「雷から休むこと」である。

雷から逃れようとしている犬を閉じ込めない

雷への恐怖や不安が悪化すると、犬は恐ろしい雷から逃れようとして、逃げ場所を探すようになることがある。

その犬をハウスやクレートへ閉じ込めて動きを止めようとすると、怖い雷から逃れたい犬から逃げる選択肢まで奪うことになる。

雷から逃れようとする犬を閉じ込めない。

悪化している犬に自己流の対策を次々試さない

雷への恐怖や不安がすでに悪化している場合、ネットなどで見つけた「効くかもしれない」方法を自己流で次々試すことは避ける。

十分な効果が得られないまま「もう少し様子を見よう」としている間に再び雷が鳴り、犬の恐怖や不安がさらに悪化する場合がある。

悪化しているときは、これ以上の悪化を食い止めることを目標に、必要な対策を順に行う。


第Ⅳ部|状況が変わった場合の対応

犬が前より雷を怖がるようになったらどうするのか

犬が以前より雷を怖がるようになった場合、まず目指すのは、これ以上の悪化を防ぐことである。

確認するのは、

  • 雷を怖がる仕草や行動が激しくなっていないか
  • 怖がる仕草や行動の種類が増えていないか
  • 怖がる時間が長くなっていないか
  • 雷が鳴り止んだあとの回復に時間がかかるようになっていないか
  • 雨や風など雷以外のものまで怖がるようになっていないか

という変化である。

悪化している場合には、何とか治そうとして自己流の対策を次々試すのではなく、これ以上の悪化を食い止めることを先に考える。

発雷シーズンは、怖い雷がいつ不意打ちでやって来るかわからない。

以前より悪化していると感じた場合には、様子を見続けず、できるだけ早く動物病院へ相談する。

動物病院では、抗ストレスサプリメント、犬アピージングフェロモン製品(アダプティル)、行動治療薬など、雷への恐怖や不安をやわらげるための対策を検討できる。

雷への恐怖や不安が強い場合には、犬の行動疾患を専門に診る獣医師がいる行動診療科・行動治療科への相談も検討する。

雷への恐怖や不安が高じ、犬の心身の健康に障るほど悪化した状態は、「犬の雷恐怖症(Thunder / Thunderstorm Phobia)」と呼ばれる。

犬が留守番中に雷を怖がるときはどうするのか

留守番中に雷が鳴った場合、その場にいない飼い主が、怖がっている犬を直接助けるためにできることは基本的には限られる。だからこそ、実際の留守番中の様子を確認し、日頃から雷への準備と対策を整えておくことが重要である。

見守りカメラで犬の様子を確認する

留守番中に雷が鳴ったとき、その犬がどんな表情や仕草を見せ、どのような行動をしているのかを、まず確認する必要がある。

留守番中の犬の状態を見たことがなければ、実際には何をしているのかわからない。

その確認のために、見守りカメラを使用する。

数時間の録画機能がある見守りカメラであれば、雷が鳴っている間の犬の実際の行動を記録できる。

録画した動画は、かかりつけの動物病院や行動診療科へ相談するときに、その後の対策や治療を考える材料として利用できる。

見守りカメラ越しに声をかけるべきか

雷を怖がる犬の場合、見守りカメラは、基本的には犬の様子を確認するために使用する。

仮に、留守番中に雷が鳴るたび、雷が鳴っている間中、飼い主が落ち着いた声で声をかけることで犬が確実に落ち着き、その対応を毎回一貫して行えるのであれば、その経験を繰り返すことはできる。

しかし、現実には、雷が鳴るたびに、雷が鳴っている間中、必ず同じ対応を続けることは困難である。

見守りカメラから飼い主の声が聞こえるときと、聞こえないときが生じる。

激しい雷で犬がひどく怖がっている姿を見れば、飼い主自身が落ち着いて対応することや、対応を一貫させることが難しくなる場合もある。

そのため、時々見守りカメラ越しに声をかけることで、雷への恐怖や不安が改善するとは言えない。

雷を怖がる犬の場合には特に、見守りカメラは犬の様子を確認するために使用する。

留守番中の雷には日頃の準備と対策が重要

留守番中、犬はひとりである。

雷が鳴っても、基本的にはひとりで対処するしかない。

飼い主が一緒にいるときには、飼い主の存在や助けを得ながら雷へ対処できるが、飼い主が留守であれば、どんなに雷が怖くても自分で対処するしかない。

見守りカメラで怖がる様子を確認し、予定を早めて帰宅できる場合はあるかもしれない。

しかし、その場にいない飼い主が、留守番中の犬を雷から直接助けることは基本的にはできない。

だからこそ、留守番中だけを何とかしようとするのではなく、飼い主が犬と一緒にいる普段の生活の中で、雷への恐怖や不安をやわらげるための準備と対策を整えておくことが重要になる。

  • 雷の刺激を小さくする。
  • 犬が自分で選べる逃げ場をつくる。
  • 食べられる大好物を準備する。
  • 必要に応じて動物病院と一緒に対策を行う。
  • 以前より悪化している場合には、さらに悪化させないための対応を始める。

日頃行っているこれらの準備と対策が、留守番中に雷にさらされた犬を支えるものとなる。

犬の心と体の健康を整える

留守番中の雷へ備える基本的な準備のひとつとして、常日頃から犬の体と心が健康であるよう取り組むことがある。

犬の心身の健康が著しく損なわれた状態では、雷に感じる恐怖や不安も悪化しやすくなる。

体の健康については、痛みや痒み、不快感や違和感などの体の問題を抱えていないか、必要な予防や治療が行われているかを確認する。

また、犬に必要な栄養を、量、質、バリエーションの面から取れていることも含まれる。

心の健康については、犬が恐怖や不安、葛藤などの強いストレスで慢性的に苦しんでいないか、犬として生まれ持った行動欲求(ニーズ)をある程度満たせているかを確認する。

具体的には、

  • 痛いところ、痒いところはないか
  • 必要な予防はできているか
  • 必要な健康診断を受けているか
  • 必要な治療を受けているか
  • 犬として必要なごはんを食べているか
  • ごはんを喜んで食べているか
  • ごはんをきちんと消化吸収できているか
  • 日々の暮らしを安心して楽しめているか
  • 体を使った運動は足りているか、楽しめているか
  • 鼻を使った探索や活動ができているか、楽しめているか
  • 脳を使って考える機会があるか、楽しめているか

というところから、犬の日々の暮らしを振り返る。

このように、犬の心身の健康を高めていくための働きかけは、海外ではEnrichment(エンリッチメント)などと呼ばれている。

雷のあと帰宅するときはどう接するか

留守番中に雷が鳴り、見守りカメラに怖がっている犬の姿が映っていても、帰宅時には、なるべくいつも通りに、穏やかに帰宅する。

慌てて帰宅し、血相を変えて犬のもとへ駆けつけるのではなく、まず飼い主自身が深呼吸して落ち着く。

そして、できるだけいつも通りに、

「ただいま。」

と穏やかに帰宅する。

第Ⅴ部|観察・獣医療・治療

雷を怖がる犬の様子を動画に記録するのはなぜか

雷を怖がっている犬の動画は、現在どの程度雷を怖がっているのかを確認し、前回や前年との変化を比較し、悪化を判断し、動物病院や行動診療科でその後の対策や治療を考えるための材料となる。

雷が鳴っているときには、まず犬の恐怖や不安をやわらげるために必要な対応を行う。

そのあと、数分程度でよいので、雷を怖がっている犬の様子をスマートフォンなどで撮影し、記録に残しておく。

動画を残すことで、その時点で犬がどの程度雷を怖がっていたのかをあとから確認できる。

次の雷が鳴ったときには、

  • 以前より震え方が激しくなっていないか。
  • 以前にはなかった仕草が加わっていないか。
  • 怖がっている時間が長くなっていないか。

などを比較できる。

雷は一度で終わるものではないため、その後、雷への恐怖や不安が以前より悪化しているのかを判断するためにも、動画による記録は重要である。

また、実際に犬が雷を怖がっているときの動画は、動物病院の獣医師や行動診療科の獣医師へ相談する際、その後の対策や治療を考える材料となる。

雷を怖がる犬にはどんな獣医療上の対策や治療があるのか

飼い主だけでは十分に助けられないほど雷を怖がる犬には、動物病院と相談しながら行う対策や、行動治療薬による治療が必要になる場合がある。

動物病院と一緒に行うものとして、

  • 抗ストレスサプリメント
  • 犬アピージングフェロモン製品
  • 行動治療薬

を挙げている。

抗ストレスサプリメント

動物病院と一緒にできる雷への対策と準備として、抗ストレスサプリメントがある。

抗ストレスサプリメントには、牛乳や緑茶などの食物から作られているものがあり、犬が感じるストレス、すなわち雷への恐怖をやわらげる効果が期待されるものがある。

雷の季節に毎日飲むタイプと、雷が鳴る日に使用するタイプがある。

使用するときには自己判断ではなく、動物病院へ相談して使用する。

犬アピージングフェロモン製品

動物病院と一緒にできる雷への対策と準備として、犬アピージングフェロモン製品がある。

アピージングフェロモンと呼ばれる、母犬が授乳中の子犬を落ち着けるために乳房付近から出すフェロモンに類似した物質を製品にしたものである。

部屋へ拡散するタイプ、ベッドやブランケットなどへ使用するスプレータイプ、チョーカータイプなどを紹介している。

使用するときには、自己判断ではなく動物病院へ相談する。

行動治療薬

犬の雷への恐怖や不安が強い場合には、行動治療薬が必要になることがある。

行動治療薬は、犬に飲ませることで脳神経に働きかけ、雷が鳴っているときに犬が恐怖や不安を感じにくくなり、落ち着きやすくなる効果がある。

行動治療薬には、薬が働きかける時間の長さによって、短時間作用型と長時間作用型がある。

また、犬を落ち着かせる神経は一つではなく、セロトニンやGABAなど、その伝達物質によって分類され、それぞれの神経へ働きかける行動治療薬がある。

抗ストレスサプリメントや犬アピージングフェロモン製品と組み合わせて使用される場合もある。

雷への恐怖や不安がすでに十分に強く、雷の季節の日常生活に支障が出ている場合には、まず行動治療薬によって雷への恐怖をやわらげることが必要なケースもある。

必要性や使用方法については、動物病院で獣医師と相談する。

なお、雷への恐怖をやわらげる目的で用いられる補助的な対策には、このほかにもさまざまなものがあるが、それぞれ科学的根拠や犬との相性が異なる。

雷を怖がる犬はいつ動物病院や行動診療科へ相談するのか

犬が以前より雷を怖がるようになっている、雷への恐怖や不安が強い、心身の健康や日常生活に障っている、雷以外へも恐怖が広がっている、飼い主だけでは十分に助けられない場合には、動物病院や行動診療科への相談を検討する。

特に確認するのは、

  • 雷を怖がる仕草や行動が以前より激しくなっている
  • 怖がる仕草や行動の種類が増えている
  • 怖がる時間が長くなっている
  • 雷が鳴り止んでも回復に時間がかかっている
  • 大雨、小雨、強風、その他の刺激まで怖がるようになっている
  • 雷への恐怖や不安が心身の健康や生活に障っている
  • 飼い主が行う対策だけでは十分に恐怖や不安をやわらげることができない

といった状態である。

以前より悪化していると感じた場合には、発雷シーズン中に様子を見続けるのではなく、できるだけ早く動物病院へ相談する。

雷への恐怖が強い場合には、犬の行動疾患を専門に診る獣医師がいる行動診療科・行動治療科への相談も検討する。

雷への恐怖や不安が高じ、心身の健康に障るほど悪化した状態は「犬の雷恐怖症(Thunder / Thunderstorm Phobia)」と呼ばれるため、すでに恐怖が強い犬では、行動を専門に診る獣医師による診療が必要となる場合がある。

あじな動物病院では、獣医療による診断や治療を行う診療科と、犬の行動への働きかけを行う行動セクションが連携している。

2026年には、雷、大雨、強風、花火を怖がる犬について個別に相談するオンライン行動カウンセリング「あじな雷外来2026」を7・8月の期間限定で開設している。

雷を怖がる犬に必要なのは、理解と対策、そして必要に応じた治療

雷を怖がって苦しんでいる犬に必要なのは、さらに雷にさらすことでも、動き回らないように閉じ込めることでもない。

必要なのは、

雷を怖がっているという理解。

怖い気持ちがさらに悪化することを防ぐための対策。

そして、必要なケースでは獣医療による治療である。

雷が鳴っているときには、犬が感じている恐怖や不安を少しでもやわらげる。

雷が鳴っていないときには、次の雷でさらに怖くならないよう準備し、悪化を防ぐ。

以前より雷を怖がるようになっている場合には、仕草や行動の激しさ、種類、持続時間、雷が鳴り止んだあとの回復、雷以外への恐怖の広がりを確認する。

悪化している場合には、自己流の方法を次々試すのではなく、これ以上の悪化を防ぎ、早めに動物病院へ相談する。

雷への恐怖が強く、心身の健康や生活に障っている場合には、行動診療科への相談や、必要に応じた行動治療薬による治療も検討する。

留守番中にも雷を怖がる犬については、見守りカメラで実際の状態を確認するとともに、飼い主が一緒にいる日頃の生活の中で、雷への対策と準備、そして心身の健康を整える取り組みを行う。

雷を怖がる犬に必要なのは、「雷を怖がらない犬にすること」を先に目指すことではない。

その犬が雷を怖がっていることを理解し、今感じている恐怖や不安をできるだけやわらげ、さらに悪化することを防ぎ、必要であれば治療を届けることである。

あじな動物病院行動セクションの相談現場では、恐ろしい雷からどうしても逃げることができず、自分の尾を咬みちぎってしまった犬にも複数頭出会ってきた。

雷への恐怖や不安が悪化してからではなく、必要な理解、対策、そして治療を、できるだけ早く犬へ届けることが重要である。

あじな動物病院行動セクション代表 中西薫

この記事を書いた人

中西薫
あじな動物病院行動セクション代表。北海道大学獣医学部入学後、同大学を自主退学。「攻撃行動の治療家」を目指し、国内外で犬の行動について学ぶ。2014年、広島県廿日市市にあじな動物病院行動科を開設。犬の行動(Behavior)を専門とし、一般にしつけやトレーニングと呼ばれる犬の教育を、行動の科学的解析と評価に基づき、行動形成トレーニング、行動療法トレーニング、行動治療としてレッスン現場で指導している。

このページで用いる主なことばの意味と位置づけは、
行動百花|行動のことば に整理しています。

■関連する雷コラム
愛犬が雷を怖がっているときはどうしたらいい?
犬が雷を怖がるときの対策|次の雷が鳴る前にできる準備
犬が雷を前より怖がるようになったときはどうしたらいい?|悪化のサインと対策
犬が留守番中に雷を怖がるときはどうしたらいい?|留守中の対策と見守りカメラ
犬が雷を怖がるときに読む|あじなの雷コラム2026年夏特別版

■関連する行動の基準ページ
犬の行動を評価するとは|問題行動と決める前に知っておきたい判断基準 #3
犬の行動の臨床プロセス|観察・評価・教育 #4
犬の問題となる行動を見落とさないための臨床的観察軸 #7

■犬の雷恐怖に関する相談・レッスン
あじな雷外来2026
レッスン

目次